超少子高齢化社会においては健康寿命の延伸のみならず、平均寿命と健康寿命の差である「不健康な期間」を減らすことがさらに重要な課題です。不健康な期間の原因にはさまざまな疾患が関与していることから、2021年に新たな試みとして国立高度専門医療研究センター6機関が協働することにより単一疾患毎の予防ではなく、さまざまな疾患を「横断的に」予防するという観点から「健康寿命延伸のための提言」をまとめました。
2017年度に、国立高度専門医療研究センター(ナショナルセンター)6機関*による公衆衛生・予防医学分野の疾患横断的研究連携事業「電子化医療情報を活用した疾患横断的コホート研究情報基盤整備事業」が始まりました。この事業により、各ナショナルセンターが実施している健康な人を対象とした追跡調査(コホート研究)のデータを共有し、分析活用ができることになりました。今回の提言はその成果の一つと言えます。
2021年2月に公表された「疾患横断的エビデンスに基づく健康寿命延伸のための提言(第一次)」[1]では、現在までの疫学的エビデンスに基づく健康寿命延伸のために必要な予防行動等について、個人とそれを取り巻く社会的要因に関する目標がまとめられています。さまざまな疾患を横断的に予防するための取り組みは、日本で初めての取り組みです。
*国立がん研究センター、国立循環器病研究センター、国立精神・神経医療研究センター、国立国際医療研究センター、国立成育医療研究センター、国立長寿医療研究センター
提言では、「喫煙」「飲酒」「食事」「体格」「身体活動」「心理社会的要因」「感染症」「健診・検診の受診と口腔ケア」「成育歴・育児歴」については「国民一人一人の目標」を、「健康の社会的決定要因」では「公衆衛生目標」を掲げています。具体的な内容は下表のとおりです。
今回の提言では、健康寿命延伸のために何をすべきかという「国民一人一人の目標」が示されましたが、どのぐらいやれば、「どの程度健康寿命が延伸できるか」「不健康な期間が短縮できるか」については言及されていません。今後、データをさらに利活用することにより、具体的な数値目標の設定に役立てることが期待されます。
表.疾患横断的エビデンスに基づく健康寿命延伸のための提言(第一次)まとめ[1]
1 |
喫煙 |
●たばこは吸わない。 ●他⼈のたばこの煙を避ける。 【国民一人一人の目標】 |
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2 |
飲酒 |
●節酒する。飲むなら節度のある飲酒を心がける。 ●飲まない人や飲めない人にお酒を強要しない。 【国民一人一人の目標】 |
3 |
食事 |
年齢に応じて、多すぎない、少なすぎない、偏りすぎないバランスのよい食事を心がける。具体的には、 ●食塩の摂取は最小限*1に。 ●野菜、果物の摂取は適切に、食物繊維は多く摂取する。 ●大豆製品を多く摂取する。 ●魚を多く摂取する。 ●赤肉*2・加工肉などの多量摂取を控える。 ●甘味飲料*3は控えめに。 ●年齢に応じて脂質や乳製品、たんぱく質摂取を工夫する。 ●多様な食品の摂取を心がける。 (*1男性7.5g/日未満、女性6.5g/日未満(厚生労働省日本人の食事摂取基準)) 【国民一人一人の目標】 |
4 |
体格 |
●やせすぎない、太りすぎない。 ●ライフステージに応じた適正体重を維持する。 【国民一人一人の目標】 |
5 |
身体活動 |
●日頃から活発な身体活動を⼼がける。
【国民一人一人の目標】 |
6 |
心理社会的要因 |
●心理社会的ストレスを回避する。 ●社会関係を保つ。 ●睡眠時間を確保し睡眠の質を向上する。 【国民一人一人の目標】 |
7 |
感染症 |
●肝炎ウイルスやピロリ菌の感染検査を受ける。 ●インフルエンザ、肺炎球菌を予防する。 【国民一人一人の目標】 |
8 |
健診・検診の受診と口腔ケア |
●定期的に健診を・適切に検診を受診する。 ●口腔内を健康に保つ。 【国民一人一人の目標】 |
9 |
成育歴・育児歴 |
●出産後初期はなるべく母乳を与える。 ●妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群、巨大児出産の経験のある人は将来の疾病に注意する。 ●早産や低出生体重で生まれた人は将来の疾病に注意する。 【国民一人一人の目標】 |
S |
健康の社会的決定要因 |
●社会経済的状況、地域の社会的・物理的環境、幼少期の成育環境に目を向ける。
【公衆衛⽣⽬標】 |
(最終更新日:2022年01月11日)