ヒトが生命を維持するためには、生体内においてエネルギーを作り出すことが必要です。有酸素性エネルギー代謝は、そのエネルギー生成過程のひとつの経路で、主に脂肪酸をエネルギー源として利用します。このエネルギー代謝は、運動中においても重要な働きをしています。
私たちの身体の中では、エネルギー源となるアデノシン三リン酸(ATP)が作り出され、そのATPが分解されることによって生産されるエネルギーを利用し、生命を維持しています。骨格筋において、ATPを分解した際のエネルギーを利用して筋収縮を行うことにより、身体を動かしたり運動を行ったりすることが可能になります。
しかしながら、組織におけるATP量には限りがあります。そのため、いくつかの経路によりATPが生成されます。大きく分けて、無酸素性エネルギー代謝(クレアチンリン酸系や解糖系)と有酸素性エネルギー代謝です。
有酸素性エネルギー代謝は、主にミトコンドリア内で行われます。グルコースや脂肪酸や多くのアミノ酸は、アセチルCoAにまで代謝され、クエン酸回路に入ります。その後このクエン酸回路から呼吸鎖に入り、そこで大量のATPが産生されます。この過程は酸素を必要とするため、有酸素性エネルギー代謝と呼ばれます。
運動時には運動強度や運動時間により、無酸素性エネルギー代謝と有酸素性エネルギー代謝が、シーソーの関係でエネルギー源を供給しています。無酸素性エネルギー代謝の解糖系では、グルコースやグリコーゲンを分解することでATPを産生し、有酸素性エネルギー代謝では、解糖系からの代謝産物であるアセチルCoAを利用するとともに、体内に貯蔵されていた脂肪酸を分解することでATPを産生します。
運動強度とエネルギー供給源との関係を調べた研究[1]では、運動強度が高まるとともに血中グルコースの分解と筋グリコーゲンの分解が増大し、糖によるエネルギー供給の寄与が大きくなっています。一方、血中脂肪酸の分解は運動強度が高まるにつれて低下し、筋における脂肪酸の分解は運動強度が65%VO2max(最大酸素摂取量)で最大となり、20%VO2maxと85%VO2maxでは低いという結果が認められています。ただし、同じ時間の運動を実施するのであれば、高強度運動ほど総エネルギー消費量が大きくなることから、脂肪酸の分解量は85%VO2maxで最も多くなることにも注目する必要があります。
また、トレーニングをすると運動時のエネルギー供給源に占める脂肪酸の比率が大きくなり、もうひとつのエネルギー供給源であるグルコースの消費を節約することにつながります。その結果として、限られた貯蔵量しかないグリコーゲンの消費も節約され、スタミナの増大に貢献することとなります。
(最終更新日:2023年02月20日)