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エネルギー代謝の評価法

現在のエネルギー代謝の評価は、呼気中の酸素および二酸化炭素濃度を測定する間接熱量測定法による場合がほとんどです。短時間のエネルギー代謝を評価する場合には、ダグラスバッグや携帯型代謝測定装置を用いることが多く、24時間から1週間のエネルギー代謝の評価になるとヒューマンカロリメーターや二重標識水法などの高額な評価法が用いられます。

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エネルギー代謝の評価法は直接熱量測定法と間接熱量測定法に大別されます。
直接法は、消費されたエネルギーが熱となって放散されるため、その熱量を直接的に測定することによりエネルギー消費量を知ることができます。例えば直接法のヒューマンカロリメーターは、それを取り囲む水管の水温変化、呼気中の水蒸気の気化熱、あるいは対象者の体温変化などを考慮してエネルギー消費量を測定しています。しかしこの装置は非常に大がかりであり、活動内容も限定されるため、現在ではほとんど使用されていません。

一方、間接法ではヒトがエネルギーを生成する際には食物から摂取した栄養素と酸素が化学反応を起こし、二酸化炭素を産生するという生理的なメカニズムを利用して、呼気中の酸素および二酸化炭素の濃度と容積からエネルギー消費量を算出します。一般的に、各栄養素1gあたりに保有される熱エネルギーは炭水化物で4kcal・脂肪で9kcal・タンパク質で4kcalと考えられています。炭水化物と脂肪は最終的に二酸化炭素と水にまで分解され、タンパク質は尿中窒素にまで分解されますから、呼吸による呼気中の酸素および二酸化炭素の濃度と容積および尿中窒素量を測定して以下の式からエネルギー消費量を求めることができます。

式1
エネルギー消費量(kcal) = 3.941 × 酸素摂取量 + 1.106 × 二酸化炭素産生量 – 2.17 × 尿中窒素量

また3大栄養素のうち摂取エネルギーに占めるタンパク質の割合は安定しています。そこでタンパク質の占める割合を12.5%と仮定すると上記の式は次のようになります(Weirの式)。

式2
エネルギー消費量(kcal) = 3.9 × 酸素摂取量 + 1.1 × 二酸化炭素産生量

短時間の多様な活動時のエネルギー消費量を測定する場合には専用のマスクを装着し、ダグラスバッグ(呼気を貯留するための大きな袋)に呼気を溜め、ガス濃度分析器およびガスメーターを用いてその濃度および容積を計測します。また携帯型の代謝測定装置では一呼吸ごとに呼気中の濃度と容積を測定することができるため、活動中のエネルギー代謝動態をリアルタイムに知ることができます。

24時間あるいはそれ以上の期間中のエネルギー消費量を正確に測定する場合には、間接法のヒューマンカロリメーターや二重標識水法が用いられます。ただしヒューマンカロリメーターは、生活の場所が室内に限定されるため、個人の生活実態を反映した日常のエネルギー消費量とは必ずしも同じであるとは言い切れません。

一方で二重標識水法は、安定同位体である重水素水(2H216O)と酸素-18(1H218O)を混合した二重標識水を経口投与し、体内で均一濃度に達した後、およそ1週間から2週間にかけて体外へと徐々に排出されます。その際に水素は汗や尿など水分(H2O)として排出されますが、酸素は水分に加えて二酸化炭素(CO2)としての排出経路を持ち備えています。この水素と酸素の排出経路違いを利用して、複数回にわたり採取した尿中の同位体の分析から二酸化炭素産生量を算出します。さらに呼吸商の代用として食物商(FQ: Food quotient)を測定期間中の食事記録から求め、酸素消費量を算出します。この評価法の特徴としては、対象者を拘束することなしに通常の生活条件下で長期間のエネルギー消費量を測定することができる点です。ただし二重標識水が非常に高価なことや測定分析に技術を要することから、日本でも限られたグループにしか実施されていないのが現状です。

(最終確認日:2023年01月05日)

引原 有輝

千葉工業大学 創造工学部教育センター(創造工学部) 教授

参考文献

  1. 田中茂穂
    間接熱量測定法による1日のエネルギー消費量の評価
    体力科学, 55巻, p527-532, 2006.
  2. Schoeller, D.A., Ravussin, E., Schutz, Y., Acheson, K.J., Baertschi, P. and Jequier, E.
    Energyexpenditure by doubly labeled water: validation in humans and proposed calculation.
    Am. J. Physiol., 250, R823-830, 1986.