顎関節症の治療は、初期治療として理学療法・スプリント療法・マイオモニター治療・薬物療法・冷罨法(れいあんぽう)などの治療法があります。残念ながらどの治療法が最も効果的であるかのエビデンスは少ないのが現状です。顎関節症の治療は、各医療機関で異なる場合が多いため日本顎関節学会による診療ガイドラインがあります。また治療法も医療機関受診後最初に行われる初期治療(一次治療)と、それらの治療で改善されない場合の手術などの治療があります。ここでは、初期治療を中心に説明を行います。
インターネットを中心に、世界的にもエビデンスが乏しい治療法を進める医療機関もあります。さらに顎関節症の治療にもかかわらず、顎関節の症状だけでなく関係ない全身のいろいろな病気も改善するとの宣伝も散見されるので、注意してください(実際に効果があるとする質の高い研究論文はありません)。初期治療として、下記のような治療法があります。残念ながらどの治療法が最も効果的であるかのエビデンスは少ないのが現状です。
しかしいずれの方法でも、まず医師が患者に対して、どうして顎関節症としての症状が生じているのかの病態の詳しい説明を行うことが必要です。すなわちいろいろな似たような治療法があるため、患者に合った治療法を医師と患者が相談しながら、その病態に合い実施可能な治療法を組み合わせていくことが大切だからです。また詳しい病態の説明のみで、不安感がなくなり、それによって疼痛の程度が下がる方も多くみえます。
顎関節症の治療のもうひとつのポイントは、日常の生活に支障のない程度まで軽減すれば治療終了となることです。違和感が全くなくなるまで治療を続ける必要はありません。たとえば口を開け閉めするときに音がする場合であっても、患者本人が生活に支障をきたしていなければ治療対象とすらならないということです。もっともこれは何もせずに放置するということではありません。医療機関で顎関節症と診断され、病態の説明を受けることが重要です。
また顎関節症は、多くの場合予後が良い病気とされています。よって1ヶ月ぐらい治療を継続しても改善しない場合は、その医療機関の先生と相談して、他の治療法や2次医療機関への受診などを検討することが望ましいとされています。
次に2010年度に日本顎関節学会より示された、「顎関節症患者のための初期治療診療ガイドライン 咀嚼筋痛を主訴とする顎関節症患者に対するスタビライゼーションスプリント治療について 一般歯科医師編」という診療ガイドラインについて説明します(2012年に新たな研究がないことが確認されている)(著者が2019年9月に、新たな研究がないか確認したところ、新しい研究があったが、推奨が変わることはないと判断した)。
症状としては、簡単にいうと、痛みが顎の関節のところより、その周囲の筋肉にある方です(すなわち咀嚼筋痛障害)。また夜に歯軋りが強くないことも必要です。そして痛みの程度が中程度の方が対象です。治療法は上の歯につける薄いタイプのスプリントです。
そして2010年までの様々な研究結果をもとに、3名の患者さんの代表と専門医と協議した結果は「咀嚼筋痛を主訴とする顎関節症患者において、適応症・治療目的・治療による害や負担・他治療の可能性も含めて十分なインフォームドコンセントを行うならば、上顎型スタビライゼーションスプリント治療を行っても良い(GRADE 2C:弱い推奨 /“低”の質のエビデンス)。」です。
また、診療ガイドラインではありませんが、日本顎関節学会より顎関節症の総論として「顎関節症治療の指針2018」が公開されていますので参考にしてください。
(最終更新日:2020年1月6日)