顎関節症とは、顎(あご)の関節とその顎に関連する筋肉=咀嚼筋(そしゃくきん)の病気です。顎の関節と咀嚼筋の問題が混在しているため、混乱されることも多くなっています。咬み合わせが直接の原因ではありませんが、関節の位置などが咬み合わせによって変化するため、診断・治療には、咬み合わせがよくわかっている必要があります。
顎関節症とは、顎の関節とその顎に関連する筋肉(咀嚼筋)の病気です。顎の関節と咀嚼筋の問題が混在しているため、混乱されることも多くなっています。ここでは、一般社団法人日本顎関節学会の「顎関節症治療の指針 2018」という指針に従って説明します。
日本顎関節学会においては、表のように疾患概念を定義して、その病態を分類しています。海外では、DC/TMD分類という分類があり、日本顎関節学会で翻訳作業が進められています。顎関節症という病名は、DC/TMDのなかの「common TMD」という中心的なものを指しており、便利な用語です。2019年に「顎関節症の診断基準(2019)」が発表されました。
顎関節症の原因は不明ですので、咬み合わせが悪いとか、体のバランスに問題があるとか、いかにも原因治療としている宣伝に安易に惑わされないことを勧めます。しかし、関節の位置などが咬み合わせによって変化するため、診断・治療には、咬み合わせがよくわかっている必要があることは間違いがありません。一方、インターネット上には、歯科治療後に顎関節症になったという記載が多く見られます。しかし、多くの顎関節症を専門とする歯科医師の経験では、歯科治療が原因で生じたのではなく、歯科治療に対して説明不足などによる歯科医師への不満があるところに、たまたま治療後に生じた顎の違和感などを因果関係と思いこみ、本来ならば、痛みと感じるほどでもない痛みが増強していることが多いと言われています。
顎関節症の疾患概念(日本顎関節学会)
顎関節症は、顎関節や咀嚼筋の疼痛、関節(雑)音、開口障害ないし顎運動異常を主要症候とする障害の包括的診断名である。その病態は咀嚼筋痛障害、顎関節痛障害、顎関節円板障害および変形性顎関節症である。
表: 顎関節症の症例分類(日本顎関節学会)
咀嚼筋痛障害(I型) |
顎関節痛障害(II型) |
顎関節円板障害(III型) a: 復位性 b: 非復位性 |
変形性顎関節症(IV型) |
註1 重複診断を承認する。
註2 顎関節円板障害の大部分は、関節円板の前方転位、前内方転位あるいは前外方転位であるが、内方転位、外方転位、後方転位、開口時の関節円板後方転位などを含む。
註3 間欠ロックは、復位性顎関節円板障害に含める。
日本顎関節学会の診断基準など多くの診断基準では、最初に他の疾患でないこと(除外診断)という鑑別が重要とされています(DC/TMDの診断でも、これらの知識がベースとなっている)。
顎関節症の診断基準(日本顎関節学会 1998)
顎関節や咀嚼筋等の疼痛・関節(雑)音・開口障害ないし顎運動異常を主要症候とし、類似の症候を呈する疾患を除外したもの。
注意:2019年に変更されたが、顎関節症そのものの診断としては同じである。
すなわち顎関節症と鑑別すべき顎関節疾患を理解することが、顎関節症の診断には必要不可欠であると言えます。たとえば、破傷風(全身の感染)<ポイント:20mm以下の急激な開口制限>・化膿性顎関節炎(関節の化膿)<ポイント:顎関節部の自発痛>・骨腫(骨の腫瘍)<ポイント:X線写真で不透過像がある>・悪性腫瘍(筋肉への腫瘍の進展)<ポイント:徐々に開口制限が重度になってくる>・脳疾患<ポイント:他に知覚麻痺・運動麻痺が生じる>などがあげられます。しかしこれらの疾患の発生率は少ないため、ポイントを的確に見極めれば診断は容易とされています。
2007年に杉崎が簡単なスクリーニングと他疾患の鑑別のポイントをまとめています。実際に顎関節の問題を主訴としている場合、その精度は上昇します。なお杉崎はこの報告で、鑑別診断で注意すべき臨床症状をまとめています。これは一般医が腫瘍性病変など他疾患を見逃さないポイントとして重要だと考えられますが、患者にとっても役立つと思われます。すなわちこれらの症状の場合は、すぐに専門医療機関を受診する必要があります。
診断手順(杉崎正志)
診断のための質問
「口を大きく開け閉めした時、あごの痛みがありますか?」
この質問に「はい」と回答した場合は顎関節症である可能性が認められる。
その後の推奨される診断法として、下記の1に当てはまり、かつ2、3のいずれかに該当する場合は顎関節症である可能性が極めて高い。
鑑別診断で注意すべき臨床症状(杉崎正志)
(最終更新日:2020年4月17日)