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歯の喪失の原因

歯を失う二大原因はむし歯と歯周病です。一般的に歯は奥歯から失われる傾向にあり、比較的若いうちはむし歯で失われる場合が多いのですが、残った歯が少なくなるにつれて歯周病で失われる歯が多くなります。喪失に至るリスクの高い歯は、未処置歯のむし歯・クラウン(冠)装着されている歯・部分義歯の針金がかかる歯(鈎(こう)歯)・歯周疾患が進行している歯などです。

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歯の喪失を防ぐためには、どのような原因で歯が失われていくかを知る必要があります。ここでは抜歯直前の状態に関する調査や追跡調査から得られた主な疫学的知見を紹介します。

抜歯の原因は?

ほとんどの歯は歯科医院での抜歯処置を経て喪失に至ります。歯周病が進行して歯がグラグラになり自然に脱落する歯もありますが、歯が失われる場のほとんどは歯科医院と考えて差し支えないと思います。そこで歯科医院で抜歯される歯の直前の状態を調べることにより、歯が失われる原因を明らかにすることができます。

【図1】は2018年に全国2,345の歯科医院で行われた全国抜歯原因調査結果です(円グラフは全年齢、棒グラフは年齢階級別)。歯が失われる原因で最も多かったのが「歯周病」(37%)で、以下「むし歯」(29%)、「破折」(18%)、「その他」(8%)、「埋伏歯」【注】(5%)、「矯正」(2%)の順でした。このうち「破折」の多くは、外傷など物理的に非日常的な大きな力が作用したものではなく、無髄歯(神経をとった歯)と考えられ、原因は「むし歯由来」とみなすことができますので、「むし歯由来」は47%となり、抜歯の最大原因となります。
抜歯原因を年齢階級別にみますと、「歯周病」と「破折」による抜歯は中高年、「埋伏歯」と「矯正」は若い年代に多く、「むし歯」はどの年齢層でも多くなっています。

【注】歯冠(歯の頭)が正常に生えないで、顎骨内あるいは口腔粘膜下に隠れている歯をいいます。

図1: 抜歯の主原因(全体)と抜歯の主原因別にみた抜歯数(年齢階級別、実数)[1]

抜歯の主原因(全体)と抜歯の主原因別にみた抜歯数

どの歯が喪失しやすいか?

2016年に行われた歯科疾患実態調査による歯ごとの喪失状況を年齢階級別にみると、全体的に歯は奥歯から失われる傾向にあります【図2】。奥歯が失われると、その前方にある歯は噛み合わせを支持する力が弱いので、より失われやすくなるという悪循環を生んでしまいます。いわゆる「出っ歯」の多くは、もともと歯並びが悪い場合もありますが、その多くは歯周病で奥歯が失われて前歯にかかる負担が大きくなったために、歯が傾いてグラグラの状態になってしまった場合が多いのです。

図2: 各歯を有する人の割合(年齢階級別)[2]

各歯を有する人の割合

喪失リスクの高い歯とは?

今までに行われた疫学研究[3][4]をまとめますと、以下のような歯は喪失に至るリスクが高いことがわかっています。

  • 未処置歯のむし歯
  • クラウン(冠)装着されている歯
  • 部分義歯の針金がかかる歯(鈎歯)
  • 歯周疾患が進行している歯

なおこのうち「クラウン(冠)装着されている歯」は、この治療法そのものが喪失を高めるということではありません。この治療が施された歯は、無髄歯(神経をとられた歯)である場合が多く、歯の根の先(根尖(こんせん)部)に病変が残っていたりする場合が多いためです。むし歯が進んで神経をとったり(抜髄)・根の治療(根管治療)が行われるようになると、歯は相当のダメージを受けたことになります。このような状態に至らないようにすることが、歯の喪失を防ぐうえで非常に重要といえます。

(最終更新日:2020年1月16日)

安藤 雄一

安藤 雄一 あんどう ゆういち

国立保健医療科学院 生涯健康研究部 主任研究官

1983年新潟大学歯学部卒業。新潟大学歯学部予防歯科学講座医員、同助手、新潟大学歯学部附属病院講師、国立感染症研究所口腔科学部歯周病室長、国立保健医療科学院口腔保健部口腔保健情報室長、同生涯健康研究部上席主任研究官、同統括研究官を経て、2019年より現職。歯科口腔保健に関わる研究、人材育成、情報発信に努めている。

参考文献

  1. (公財)8020推進財団.
    第2回 永久歯の抜歯原因調査報告書.
    東京: 8020推進財団; 2018.
    https://www.8020zaidan.or.jp/pdf/Tooth-extraction_investigation-report-2nd.pdf
  2. 厚生労働省.
    歯科疾患実態調査:結果の概要 統計表一覧 平成28年歯科疾患実態調査.
    https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/62-17b.html
  3. 安藤雄一, 葭原明弘, 清田義和, 宮﨑秀夫.
    成人における歯の喪失リスク要因に関する研究 : 地域住民を対象とした3年間の縦断調査.
    口腔衛生学会雑誌 51(3), 263-274, 2001.
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/jdh/51/3/51_KJ00003929483/_article/-char/ja/
  4. 樋浦健二, 葭原明弘, 宮崎秀夫.
    パノラマX線を用いた高齢者の辺縁部および根尖部の歯周組織健康状態に関する研究
    口腔衛生学会雑誌, 53(2): 130-136、2003.
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/jdh/53/2/53_KJ00003758607/_article/-char/ja/