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こころとからだ

普段からだは自律神経系・内分泌系・免疫系のバランスによって微妙に調節されています。しかしストレスによりこのバランスが崩れたりすると、からだの病気が生じます。逆にからだの病気はこころにも影響します。また日常のストレスは食べ過ぎ・飲みすぎといった不健康な行動を通しても間接的にからだの病気を引き起こすので、お互いの関係をよく知っておくことは大切です。

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こころとからだの関係を考える時、こころはからだのどのあたりにあるのだろうかという疑問が湧いてきます。ハート・マークでこころを示すように昔は心臓と考えられた時代もありましたし、また日本では胆力とか「臍下丹田に気を貯える」などと表現されるようにお腹のあたりが重視されたものです。近年では、脳科学研究の進歩と相まって、環境からのシグナル=刺激をいかに「受け取り、記憶し、変換し、そして生成し、出力するのか」という情報処理システムになぞって、脳を舞台にその機能から『こころ』を捉えようとする生物学的方法がとられています。しかし「こころとは一体何か」「どこにあるのか」、それは21世紀最大の研究課題と言われています。

ところでこの『こころ』と『からだ』の関係についてはどの程度わかってきているのでしょうか?
誰しも不安や恐怖に襲われると心臓がドキドキしたり、冷や汗が出たりします。場合によっては胃が痛くなったり、また興奮すると血圧が上がったりします。逆に風邪をこじらせ長引くと憂うつな気分になったり、空腹過ぎるとイライラしたりします。
ここで共通しているのは「情動」反応と呼ばれるものですが、こころとからだの関係を探るキーワードと言ってよいかもしれません。米国の行動医学の大家ジェームズは、「悲しいから泣くのではない、涙が出るから悲しいのだ」とその関係を解説しました。また東洋では、デカルトの「われ思う、故にわれあり」といった二元論的な見方とは対照的に心身一如(こころと身体は不可分)という一元論的な考え方もあります。このように古今東西、時代・立場によって種々の考え方・見方があるわけです。

近年この関係について生物学的アプローチによる解明がなされて来ました。脳の中も含め、からだの中では自律神経系・内分泌系、それに免疫系が複雑にクロストークしながらこころと身体の関係を微妙に調節しているというわけです。確かに前述した種々の症状の一部は自律神経系のひとつ、交感神経の緊張状態で説明つきますし、またストレスにより女性の月経不順を来たすのは内分泌系の乱れからであり、試験のストレスで風邪をひきやすくなるのが免疫系の低下で説明できます。ストレス状態が長期間続くとこれら三系の微妙なバランスは崩れ、こころだけでなく身体の病気も引き起こすというわけです。

こうしたことを手がかりにストレスによる病気を観察してみると、ストレスを上手に発散したり対処したりすることが下手であったり、ストレスをためやすい性格が原因で、からだの病気=心身症になりやすいことがわかってきました。
最近では例えば、病気と性格傾向やストレス対処様式との関係、あるいはその人の持っている遺伝的素質との関係が注目されて来ています。糖尿病と抑うつとの関係もそのひとつの例ですし、冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)発症にタイプA性格行動様式が関係していると海外では報告されています。他方で直接的に関係しなくても、ストレスが食べ過ぎや飲みすぎといった不健康な健康管理の行動を通して身体の病気(肥満や糖尿病・アルコール性肝障害など)を間接的に引き起こしている点にも注目がなされています。いわゆる「生活習慣病」と言われるものにもこうしたこころとからだの関係に目を向けることが大切というわけです。

今回はこころと身体の関係について、ストレスとからだの症状あるいは心身症や生活習慣病といったからだの病気との関係に絞って簡単に説明してきました。今後益々、これらの関係について解明が進んでいくことでしょう。

小牧 元

元 独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 心身医学研究部

参考文献

  1. 小牧元, 久保千春, 福土審 編
    治療ガイドライン2006
    協和企画, 東京, 2006.