急性心筋梗塞をはじめとする循環器疾患は、老化や高血圧・喫煙・肥満・糖尿病など全身血管の動脈硬化をきたす疾患が原因となっていますが、発症の引き金としてストレスやうつなどの影響が大きいことが知られています。⽣活習慣病予防と同時にこころの健康維持も、循環器疾患の予防のためにとても大切です。
循環器疾患、なかでも心筋梗塞や脳梗塞は、血栓により突然動脈が閉塞して発症し、重篤な結果を引き起こす疾患です。加齢以外に喫煙・糖尿病・高血圧・脂質異常症・肥満などの動脈硬化をきたす生活習慣病が原因疾患として最重要視されています。しかし、いろいろなデータベースから⼼筋梗塞の発症理由を調べてみると、ストレスやうつがかかわっていることが明らかになっています。古くは A 型性格と⼼筋梗塞との関連が指摘されています。⽬標達成感が少なく常に完全性を切望したり、いつも認められることを望み、多くのことにかかわり時間に追われるように加速度的に思考したりや⾏動する、精神的・⾝体的にてきぱきとした行動をする、という特徴を持つ人に心筋梗塞が多いと報告されました。また湾岸戦争の際に、警報やミサイル着弾にともなって心筋梗塞発症数が増加することがイスラエルより報告されました。
このような精神的・⾝体的ストレスが、直接・間接的に⼼筋梗塞を発症させる現象は⽇本⼈においても同様です。⼀般的に⼼筋梗塞の発症は、午前中の⾎圧上昇や⾎⼩板凝集能亢進の⽇内変動に合わせて午前中に多いのですが、働き盛りの⽐較的若い男性喫煙者では夜の遅い就業中に発症するなど、社会・経済的要因のかかわりがあるようです。また有職者男性では海外同様ブルーマンデー(憂うつな⽉曜⽇)の発症が多いものの、⾼齢⼥性では⼟曜⽇の発症が多く、週末に主婦への依存度が⾼いことで⼥性配偶者へのストレスとなっている⽇本独⾃の発症要因として注⽬されています。
また、うつも⼼筋梗塞などの冠動脈疾患に多いこと、うつを持つ⼼筋梗塞患者さんの予後が悪いことも知られています。うつが⽣命予後に影響するメカニズムとして、うつ症状がある⼈の不健康な⽣活習慣が⼀因と推測されています。もうひとつは、うつに伴い分泌されるストレスホルモンが直接的に循環動態に悪影響を及ぼすもので、例えば⾎中カテコラミンの⾼値による⾃律神経異常(交感神経優位)、⾎⼩板凝集能の亢進、⾎管内⽪機能の低下などが報告されています。
ストレスやうつが⼼筋梗塞の危険因⼦として重要であるならば、その治療により⼼疾患の改善が期待できるかもしれません。現在の経済・社会状況からは、右肩あがりの経済成⻑はできず、仕事中⼼の⽣活スタイルの限界が予感されます。ストレスやうつに対する精神的ケアが予防医学の点からも今後ますます重要となりそうです。
(最終更新日:2020年2月6日)