心疾患や脳血管疾患に代表される循環器疾患の中にはうつ病を発症している人も少なくありません。うつ病になると循環器疾患の再発や予後によくない影響があると報告され、注目されています。うつ病を早期に発見し、適切な治療を受けることが重要です。
循環器疾患とは、⾎液を全⾝に循環させる臓器である⼼臓や⾎管などが正常に働かなくなる疾患のことで、⾼⾎圧・⼼疾患(急性⼼筋梗塞などの虚⾎性⼼疾患や⼼不全)・脳⾎管疾患(脳梗塞・脳出⾎・くも膜下出⾎)・動脈瘤などに分類されます。⼼疾患は⽇本における死因の第 2 位であり、脳⾎管疾患は第4位です[1]。
また循環器疾患全体にかかる医療費は国⺠医療費の 19.7%(平成29年)を占め、第1位となっています[2]。⽣活習慣の改善による予防だけでなく、治療が⻑期化し患者の⽣活への影響も⼤きいことから、⽣活の質(QOL)の向上も重要視されるようになっています。
海外の研究では、心疾患の5人に1人(15~23%)はうつ病を経験すると報告されています。うつ病になると心疾患になりやすいとも、逆に心疾患になるとうつ病になりやすいともいわれていますが、まだ結論はでていません。いずれにしてもうつ病の心疾患患者は、服薬遵守や適度な運動ができなくなったり、生活習慣が悪化したりすることから、予後がよくないと考えられています。
脳血管疾患とうつ病についても、心疾患と同様の傾向があります。脳血管疾患の13~22%にうつ病が認められ、もっと広く抑うつ症状をとらえると35%になるという研究結果もあります。抑うつ状態になると、リハビリテーションへの意欲の低下がみられますので注意が必要です。抑うつ症状やうつ病を見つける評価方法はいろいろありますが、脳血管疾患の場合、障害を受けた部位によっては認知機能が低下したり、言語的なコミュニケーションが困難になったりするため、抑うつ症状の評価が難しい場合があります。
早期にうつ病のサインに気がつくことが重要になります。一般的に、物事に対して興味がなくなって楽しめなくなり、気分が落ち込み憂うつになり、絶望的な気持ちになることなどがサインといわれています。抗うつ薬が効果的な場合があり、また抑うつ感を受け止めることで前向きに対処するきっかけになることもあります。主治医や専門医に相談することをお勧めします。
循環器疾患とこころの問題に関する考察の歴史は古く、すでに1950年代から心筋梗塞になりやすい行動特性などが指摘されてきました。しかし循環器疾患とうつ病に関する系統的な研究となると、日本では心筋梗塞発症の危険因子の研究を除いてはあまり行なわれてきませんでした。近年では、うつ病の循環器疾患への影響や原因などについて研究が進められています。⽣物学的なメカニズムとしては、⾃律神経系機能の変化・⾎⼩板の活性化・炎症や⾎管内⽪機能の低下などが考えられていますが、まだ明らかになっていません。
(最終更新日:2020年2月6日)