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子どもの睡眠

小児の睡眠不足や睡眠障害が持続すると、肥満や生活習慣病(糖尿病・高血圧)、うつ病などの発症率を高めたり症状を増悪させたりする危険性があります。適切に対処していくには「早起き・早寝」という基本的な生活習慣から見直すことが必要です。

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子どもの眠りに黄色信号

子どもは日中に遊び回り、夕食とお風呂が済めば、重たいまぶたをこすりながらあくびをして寝床に入る。私たちの子ども時代にはそれが一般的な姿でした。でも最近では、寝るべき時間に眠らない、眠くても眠れない子どもが増加しています。現代っ子の実に4-5人に1人は、睡眠習慣の乱れや睡眠障害など何らかの睡眠問題を抱えているのです。

幼児の睡眠習慣の問題

日本小児保健協会が1980年・1990年・2000年に行った幼児期の睡眠習慣に関する調査によると、1歳6か月児・2歳児・3歳児・4歳児・5-6歳児のすべてにおいて22時以降に就寝する割合が増加しており、子どもの生活リズムが年々夜型傾向にあることが明らかになりました。最近では夜型化に少し歯止めがかかりつつありますが、遅寝遅起きの子供が数多く見られます。

厚生労働省が行っている21世紀出世児縦断調査では、2001年に出生した4万人以上の子どもの睡眠習慣について追跡調査を実施しています。4歳6ヶ月時点での最も多い就寝時刻は21時台(50.1%)、次いで22時台(21.9%)であり、21時前に就寝する子供は5人に1人以下しかいませんでした。これは親が残業等で帰宅が遅いことも影響しています。お母さんが働いている家庭ではお母さんの労働時間が長いほど22時以降に就床する子どもの割合が多いことがわかっています。今後女性の社会進出はますます進みますが、親のライフスタイルによって子どもの睡眠も大きな影響を受けることは意識しておくべきでしょう。

学童期の子どもたちの睡眠習慣の問題

日本の小・中・高校生は世界的に見ても最も夜更かしをしていることで有名です。いくら夜更かしをしても登校時間は同じですから、睡眠時間は短くなり、朝に起こされてもボーっとしたまま朝食も摂らずに登校し、日中には強い眠気をこらえたまま授業を受けている子どもが数多くいます。眠気のためにもうろうとして授業に集中できず、学習障害や注意欠陥多動性障害などの発達障害と間違われてしまったケースもあります。

夜更かしの子どもは寝不足を週末に解消します。平日に比べて週末に3時間以上遅くまで寝ている子どもは睡眠不足があると考えてよいでしょう。週末に遅くまで寝ていると、その日の夜に眠れなくなり、月曜日の朝を辛い思いをして迎えることになります。

夜更かしは睡眠不足を招きます。睡眠不足の子どもが成長とともに激増していることが分かります。TV・ゲーム・勉強など原因はさまざまですが「なんとなく夜更かししてしまう」子どもが最も多いことが分かっています。このような子どもたちには適切な指導が必要でしょう。

体内時計を乱すもの

不規則な睡眠習慣は生体リズムを乱します。私たちは朝に目覚めて明るい光を浴びてから約14時間後より徐々に眠気を感じるように体内時計(生物時計)がセットされています。生活リズムが不規則な子どもでは、毎日の体内時計の時刻合わせがまちまちであるため、寝つき時刻も目覚め時刻もますます不規則になっていきます。特に週末に寝坊をする子どもは体内時計を整える強い光(太陽光)を浴びる機会も逃してしまい、夜更かし型に拍車がかかります。

夜更かしの子どもは寝不足を週末に解消します。平日に比べて週末に3時間以上遅くまで寝ている子どもは睡眠不足があると考えてよいでしょう。週末に遅くまで寝ていると、その日の夜に眠れなくなり、月曜日の朝を辛い思いをして迎えることになります。

「早寝・早起き」ではなく

「早起きのコツはなんでしょうか?」
このような質問をよく受けます。「早く寝なさい!明日起きられないわよ!」お母さんの小言が聞こえるようですが、この発想を逆転させてください。

「早寝・早起き」ではなく「早起き・早寝」から始めましょう。まず1週間、頑張って早起きをさせましょう。そして歯磨きでもしながらベランダに出て日光を浴びる。それが無理なら窓辺で顔を戸外に向けるのでも結構です(室内方向を見てしまうと体内時計の時刻合わせには不十分です)。
1~2週間ほども続けると子どもたちの体内時計は徐々に朝型に変わり、早起きの辛さは減ってきます。早起きさせた分の睡眠時間は早寝になった分で取り返せるでしょう。早起きから始めることで、太陽と朝食を効果的に使って体内時計の時刻合わせを行うわけです。ただしくれぐれも週末の寝坊には注意してください。お昼近くまで寝坊してしまうと体内時計が一気に遅れ、1週間分の苦労は水の泡になってしまいます。

睡眠障害を見逃さない

子どもでも、生活スタイルや睡眠習慣の改善だけでは対処できないさまざまな睡眠障害がみられます。その代表は睡眠時無呼吸症候群です。小児の2%で睡眠時無呼吸症候群がみられます。重度の場合には日中の集中困難や学習能力の低下がみられますから要注意です。そのほか、睡眠時遊行症(夢遊病)・睡眠時驚愕症(夜驚)・夜尿症・不眠症概日リズム睡眠障害ムズムズ脚症候群・アトピー性皮膚炎の痒みによる不眠など、大人と同様にさまざまな睡眠障害がみられます。寝ている途中に呼吸が止まってしまう、眠りの質が悪い、寝入りばなや夜間に身体の異常な動きがある、日中の眠気が強すぎる、このような症状が1か月以上にわたって続くときにはかかりつけの小児科医に相談しましょう。

睡眠と休養は健やかな成長の源

健やかな眠りがあってこそ、活発な日常生活が営めます。子どもの睡眠習慣は大人の生活スタイルを映す鏡です。家族全員で生活習慣を見直し、子どもの快眠を支えてあげてください。

三島 和夫

三島 和夫 みしま かずお

秋田大学大学院 医学系研究科精神科学講座 教授

1987年秋田大学医学部医学科卒業。医師、博士(医学)。精神保健指定医、日本精神神経学会専門医・指導医、日本睡眠学会専門医。日本睡眠学会、日本生物学的精神医学会、日本時間生物学会の理事、日本学術会議連携会員などを務める。秋田大学医学部精神科学講座准教授、バージニア大学時間生物学研究センター研究員、スタンフォード大学睡眠研究センター客員准教授、2006年より国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。