慢性不眠をどう防ぐか、どう対処するか

慢性不眠を防ぐには、生理的過覚醒が進行しないようにブレーキをかける必要があります。被災者のストレスを緩和するための物心両面での支援、こころのケア、住環境の整備なども大事です。ただし、いったん8週間以上の慢性不眠に陥った場合には、さまざまな手段を使って"眠れたという体験"をすることが最も重要です。眠ることで不眠に対する身構えや緊張が和らぎますし、睡眠自体が生理的過覚醒を効率よく抑える作用をもっているためです。

一般的な不眠対処法が無効なときには、一時的にでも睡眠薬を用いて良眠することをお薦めします。睡眠薬を服用することに対して依存症等の不安を抱く方は少なくありませんが、現在の睡眠薬は安全性が高いので心配はありません。医師の指示を守りながら服用してください。眠りを取り戻すことで、生理的過覚醒と慢性不眠の悪循環を断ち切れれば、睡眠薬の減量や中止も可能です。実際、日本人で睡眠薬の服用を始めた方の7割は3ヶ月以内に服用を止められています。

震災から8週間(2ヶ月)経つ頃には、避難所から仮設住宅や関係先などへ移り、就寝環境も改善する方々も多いと思います。消灯時刻もご自分で決められるようになります。その際には、以下の点に注意することで睡眠の質を良くすることができます。

  1. 早すぎる就床は不眠のもと:
    その人が眠りにつける時間帯は決まっています。眠るための準備が整っていないのに就床しても寝つかれず、焦りが増すばかりです(「眠りのメカニズム」)。寝つきが悪い人の場合には、横になりたいなと思った時刻からもう少し夜更かししましょう。就床時刻を眠りのニーズをため込むことで寝つきが良くなります。睡眠薬を服用している方は服用時刻も遅らせましょう。
  2. 寝床にしがみつかない:
    不眠症がある人ほど寝床に長くいたがります。「眠れなくても横になっているだけで休まるから良い」という発想は不眠症を悪化させることが分かっています。震災直後は例外として、慢性不眠症がある場合には眠くなければ無理に寝床にいる必要はありません。むしろ、「眠れずに寝床で悶々としている体験」のために不眠恐怖が悪化します。横になっても15分以上寝つかれず、イライラするようであれば布団から出ることをお薦めします。不思議と寝床から出ると眠気がやってきます。その時にあらためて寝床に向かうようにしてください。コンパクトで質の良い眠りを得るためにも、寝床で横になっている時間を絞り込むことがポイントです。
  3. 睡眠のニーズを高める:
    震災直後は昼でも夜でも眠れるときに眠れば結構です。ただし、生活が落ち着いてきたら、昼寝は1時間程度にしましょう。1時間以上の長い昼寝は夜の睡眠のニーズを減らしてしまいます。また、戸外に出て自然光を浴びながら、ウォーキングなど有酸素運動を気長に続けましょう。早朝覚醒のある方は朝に光を浴びると不眠症状が悪化するので、夕方の散歩がお薦めです。