震災直後の不眠にどのように対処するか
被災地の方々の場合3 「せん妄を見逃さない」

震災地では、特に高齢の方で、強いストレス、睡眠不足、環境の急激な変化などから、“せん妄”という不眠症に似た病気になりやすいことが分かっています。せん妄は、意識混濁(寝ぼけ状態)に不穏・興奮が加わった状態です。一般的には強い不眠があり、もうろう状態のまま夜間徘徊したり、興奮して大声を出すこともあります。逆に昼間にはウトウトと午睡が増えます(昼夜逆転)。症状には変動があり、問いかけても状況が理解できないときもあれば、比較的すっきりとしている時間帯もあります。多くの場合には数日から1週間程度で軽減してきますが、時には数週間以上にわたって持続する場合もあります。認知症とは異なり、睡眠リズムが整って意識混濁が治れば元に戻ります。

せん妄の中には、不穏症状が目立たず、不眠だけが目立つタイプ、無気力や活気がないなどうつ状態に見えるタイプ、記憶力低下や見当識障害(時間や場所が分からない)などの認知症に似た症状が目立つタイプもあるため、注意が必要です。

せん妄は不眠症とは原因も治療法も異なります。せん妄はご自分では分かりません。周囲の方が気づき、援助してあげる必要があります。不眠症とは異なり、昼間に熟睡しないように、ウトウトしていたらなるべく声をかけて起こし、昼夜のメリハリをつけるよう心がけてください。一般的なベンゾジアゼピン系の睡眠薬や安定剤(抗不安薬)は効果が乏しく、むしろこれらの薬剤によってせん妄を悪化させてしまうこともあります。したがって、不眠と一緒に上記のような変わった様子が見られる場合には、せん妄を見逃さないように慎重に対処する必要性があります。

また、習慣性飲酒のあった方が震災後に急に断酒をした後にせん妄が出現することがあります(振戦せん妄) 。意識混濁に不穏・興奮状態のほか、手の震えや発汗、動悸などがみられるのが特徴的です。この場合には至急の対処が必要ですのでできるだけ早く医療関係者に相談してください。