はじめに
(独) 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 三島和夫
2011年(平成23年)3月11日14時46分に、日本の三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の巨大地震(東北地方太平洋沖地震)が起こりました。このたびの震災によりお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災された多くの皆様に対し心からお見舞い申し上げます。
本震だけではなく、その後も、巨大津波、福島の原子力発電所の事故、長期に続く余震と立て続けに起こる深刻な出来事に私たちは不安な日々を過ごしています。被災地の様子が連日報道されていますが、物心両面で厳しい耐乏生活を強いられ、老若男女を問わず疲弊したご様子で心が痛みます。被災地入りした医療関係者からの情報では、必要な医療の提供もままならず、治療薬も十分に補給できないことから、服薬を中断せざるを得なかったり、持病を悪化させたりするケースが後を絶たないと聞きます。一日でも早く被災地の生活環境、医療環境が改善されることを願ってやみません。
被災地におられる方々はもちろんのこと、被災地にいなくても衝撃的な震災情報に日々接することで、不眠に悩む方々が急増しています。 天災やテロリズムなど大きな社会的出来事があった後に不眠に悩む方が増加することは過去にも報告されています。 例えば、2001年9月に起こったアメリカ同時多発テロ事件(9.11テロ)直後には米国民の58%(女性の78%)が週に数回の不眠を自覚していました(それ以前は27%) 。同様に、1995年の阪神淡路大震災や 2004年のスマトラ島沖地震の後にも約6割の方々で不眠が認められています。
幸いなことに、多くの人々では、時間が経つにつれて不眠は徐々に改善してゆきます。人には自然治癒力があるからです。ただし、一部の方々では、生活環境が改善されるなど不安要因が緩和されても不眠が長期化してしまいます(慢性不眠に陥る) 。
これはなぜなのでしょう?治療は必要なのでしょうか?睡眠薬は服用しても大丈夫でしょうか?震災後、数多くの問い合わせをいただきました。
本サイトでは、震災後に生じた不眠をはじめとする睡眠問題をどのように考え、またどのように対処すべきかまとめてみました。本文は主に一般向けに書きましたが、医療関係者の方々にも参考にしていただければ幸いです。