矯正診療は検査→診断→治療の順で行われます(再診断を行うこともあります)。検査により不正咬合の成り立ちが解明され、治療方針が決まります。小学生・中学生などの乳歯が残っている年齢では、旺盛な成長を利用して骨格的な不正の解消を図ります。永久歯列ではほとんどの患者さんでマルチブラケット装置を使用した個々の歯の再配列が行われます。それぞれをⅠ期治療、Ⅱ期治療と呼んでいます。
矯正治療を開始するにあたり、詳細な検査が行われます。なかでも側面頭部エックス線規格写真という、普通の歯医者さんにはない特別なエックス線写真検査などを用いて、不正咬合が骨格・歯槽・機能のどこに問題点があるのか、その成り立ちが解明されてから治療方針が決まります。
歯列矯正というと歯に装置をつけて細いワイヤーを沿わせる装置というイメージがあるのではないでしょうか。歯面に3mm角程度の小さなブラケットという装置を直接接着し、直径0.5mm程度の細いワイヤーを通し、ワイヤーの弾力性などを利用して歯並びを直していく装置(写真)を総称して『マルチブラケット装置』と呼びます。日本中どこの矯正歯科医院でも使用されている装置です。
ブラケットやワイヤーなどいくつも種類がありますが、1920年ごろ米国で開発されて以来その基本的なコンセプトは変わりません。長い歴史の中で改良が加えられてきた治療効果について信頼性の高い矯正装置です。近年は写真のように透明な目立たないブラケットも普及しており、また表の歯面ではなく裏の歯面に接着する見えない矯正装置のタイプも使われています。マルチブラケット装置は上下全体に使用する場合、永久歯列になってから治療を行います。
Ⅰ期治療は永久歯列完成前の成長に余力がある子供に対して行われ、Ⅱ期治療は永久歯列完成後にマルチブラケット装置により行われる矯正治療です。
成長期にある子供の不正咬合が骨格性であれば、成長を利用した骨格性の不正の解消が試みられます。右図にあるような「バイオネ-ターという口に入れる装置」「ヘッドギアという頭にかぶったり首にゴムバンドを回す装置」「チンキャップという頭にかぶる装置」(いずれも取り外し式)が含まれます。
バイオネ-ターやヘッドギアなどの治療効果について、近年米国や英国で上顎前突患者に対する大規模な研究が行われ、オーバージェットの減少と言う点で充分な治療効果が認められました。しかし骨格性の不正の解消については、平均的には効果はあまり認められませんでした。すなわち上顎前突は主に前歯の傾きが変わることでカモフラージュされていました。矯正治療は歯並びを直すだけではなく土台である骨格の改善も行うのですが、治療には限界があるということを示していると思われます。なおⅠ期治療を行って生え変わりがスムーズに進んだ場合、Ⅱ期治療は必要ないかもしれません。
Ⅱ期治療では、マルチブラケット装置の治療効果が歴史的に証明されています。最近ではⅡ期治療で透明の樹脂で出来た取り外し式矯正装置による治療が行われています。なかでも10年以上前に米国で開発されたインビザラインについては複数の比較研究があり、マルチブラケット装置の治療効果には劣るものの治療効果があることが報告されています。ある種の不正咬合の治療には効果を発揮すると考えられます。
わずかな骨格性不正ならば歯の移動によってカモフラージュして治療することが可能です。ところがその程度が著しく大きく、オーバージェットがマイナス5mmを越えるなどの場合は一般的な矯正治療の適応の範囲を越え、下あごを切断して後ろに下げるなどの外科的手法を併用した外科矯正治療が行われます。この骨格性不正が大きい病気を顎変形症といい、一部の病院で保険診療の対象となります。
顎変形症の他にも国の定める42の疾患(下記国の定める先天疾患リスト参照)に起因する不正咬合の矯正歯科治療には一部の病院で保険が適用されます。保険適用医療機関は日本矯正歯科学会ホームページの自立支援・顎口腔機能施設リスト[1]で確認することができます。