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訪問歯科診療

訪問歯科診療とは、要介護高齢者が在宅や施設で歯科診療が受けられるものです。要介護高齢者の多くは歯科的な問題を抱えているにも関わらず、これまでの外来での歯科受診は70~74歳をピークに、その後急速に減少する実態がありました。歯科治療をはじめとする口腔機能の維持管理は、食べるという機能ばかりでなく、生きる力やQOLの向上に寄与することが明らかになってきました。身近なかかりつけの歯科医などに相談し、外来受診が困難な場合であっても治療をあきらめないことが重要です。

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はじめに

むし歯と歯周病に代表される歯科疾患には“罹りやすい年齢”があります。例えば歯周病は40歳以降に増加し、むし歯は小児と高齢者で発生のリスクが高まります。これらの歯科疾患は放置されると歯の喪失を引き起こし、咀嚼機能をはじめとする口腔機能の低下を招きます。しかもこの歯の保存状況と咀嚼機能の回復は、食べることの楽しみなどQOLに関連するばかりでなく全身の健康と生命予後にも影響することが最近の調査で明らかになってきました[1][2]
ところが80歳高齢者で20歯以上の歯を保有している者の割合は約20%に過ぎず、多くの高齢者が義歯など咀嚼機能の回復が必要とされています。そして要介護高齢者など通院や医療機関への搬送が困難な場合に行われるのが訪問歯科診療です。

高齢者の歯科受療状況

歯科医療はこれまで、外来を中心に行われ、その年齢階級別歯科受療率は、 70~74歳をピークとして、その後は急速に低下するという実態がありました[4]

一方これまでの訪問歯科診療の実施率をみると、1ヶ月間の在宅医療実施歯科診療所は18.2%であり、都道府県別にみると最小11.0%(沖縄県)から最大35.7%(佐賀県)まで都道府県間に較差がみられます。実施件数では、在宅医療サービス実施診療所1箇所当たりの訪問歯科診療の件数は、全国平均で1ヶ月間に12.6件となっています[6]。すなわち約20%の歯科診療所が毎月平均12件強の訪問診療を行っているというのが現状です。この実施件数は、全要介護高齢者を対象とした月1回の定期的管理を中心とした在宅歯科医療サービスを想定した場合、3.6%の充足率に過ぎません。
一方で介護保険における居宅療養管理指導では、歯科医師による実施を行っている診療所は全国平均で4.0%(最大値9.1%・最小値1.5%)、歯科衛生士による実施は2.7%(最大値8.7%・最小値0.9%)となっています。

訪問歯科診療で行われる治療内容

基本的には、訪問歯科診療で行われる診療内容は外来で行われるものと同じものです。しかし治療時の姿勢の保持や照明など制約の中で行われるので、治療内容によって診療所で受診することが必要な場合があります。また歯科医師が患者の全身状態を把握するために、かかりつけの医師や入院時の主治医などと外来診療以上に密な連携が求められます。

大事なことは外来受診が困難な場合に、本人や家族が歯科治療を受けることをあきらめないことです。入院前にかかりつけの歯科医院を持っていても多くの場合は、急性期病院等への入院から回復期・施設入所等へ移っていく間に歯科医師・患者関係が途切れてしまい、退院後の在宅療養時にかかりつけ医とかかりつけ歯科医との連携が取れていないために、結果的に口腔内状態の悪化や義歯治療などの対応が放置されるという悪循環を招いていることがしばしばみられます。

在宅療養をしている患者の歯科の問題には、義歯の不適合・むし歯に伴う歯の痛みや・歯ぐきの腫れ・口内炎などがあげられます。これらの多くは訪問歯科診療で対応することができます。

口腔内の不具合は食事の意欲の低下につながります。さらには要介護高齢者における口腔清掃状態の悪化は、誤嚥性肺炎の原因にもなりますので、定期的なチェックが必要になります[8]。また噛むことや飲み込むことの障害(咀嚼・嚥下障害)がみられることがあり、機能低下の早期の発見と対応が必要です。そして終末期においても最後まで口から食べるための歯科的対応は、本人の生きる力を支援するものです【図3】。これらの処置は保険診療上でも位置づけられています。

また要介護高齢者の歯科ニーズは、全要介護高齢者に対する定期的口腔ケア・食支援、全要介護高齢者の少なくとも50%への歯科治療、全介護高齢者の約20%に対する摂食嚥下指導が必要と試算されています[10]

訪問歯科診療の受診方法

かかりつけの歯科医院がある場合には訪問診療をお願いしてみることです。その歯科医院で対応が難しい場合には、他の医療機関の紹介してくれると考えられます。あるいは市町村保健センターなどの行政機関や主治医・介護職など身近の担当者に問い合わせれば、地域でのネットワークがすでに整備されていることが多いので解決につながります。

平成20年(2008年)4月からスタートした後期高齢者医療制度でも、在宅医療の充実は重点課題のひとつであり、歯科医師会など関係機関でも訪問歯科診療の提供体制の充実に取り組まれています。在宅要介護高齢者の歯科受診の機会を向上するために、平成20年4月からは「在宅療養支援歯科診療所」も医療保険で新設されることになっていますので、関係機関に問い合わせれば地域で積極的に訪問歯科診療に取り組んでいる医療機関を知ることができます。

深井保健科学研究所 深井 穫博

参考文献

  1. Fukai K et al.
    Dental health and 15-year mortality in a cohort of community-residing older people
    Geriatr Gerontol Int 2007; 7: 341-347.
  2. Fukai K et al.
    Mortalities of community-residing adult residents with and without dentures
    Geriatr Gerontol Int 2008 in press, 15 Jan 2008 accepted.
  3. 厚生労働省
    平成17年歯科疾患実態調査
    2007.
  4. 厚生労働省
    患者調査
    2005.
  5. 厚生労働省
    医療施設調査
    2005.
  6. 厚生労働省
    介護保険事業状況報告
    2005.
  7. 高齢者リハビリテーション研究会
    中間報告「高齢者リハビリテーションのあるべき方向」
    Jan 2004.
  8. Yoneyama T et al.
    Oral care Working Group: Oral care and pneumonia
    Lancet, 354: 515, 1999.
  9. 米山武義, 菊谷武, 太田仁史
    健康な心と身体は口腔から―口腔機能向上と高齢者の低栄養予防―
    日本歯科医学会誌, 25: 14-20, 2006.
  10. 深井穫博
    在宅歯科医療推進のためのグランドデザイン
    平成19年度厚生労働省長寿医療研究委託事業