低栄養はフレイルを招く重要な因子であり、また、転倒予防や介護予防の観点からも重要で、低栄養の予防は、健康寿命の延伸に繋がります。
*フレイル…フレイルは、体重減少、疲れやすさの自覚、活動量の低下、歩行速度の低下、筋力低下の5項目のうち3項目以上に該当することによって、診断されます。フレイルは、転倒、日常生活活動度の低下、入院、死亡などと関連があることが明らかになっています。
高齢になると、様々な要因により、食欲不振から体重が減少し、低栄養状態となることが少なくありません(図1)。老化による生理的変化として、口腔内の歯の欠損や義歯の不適合により食欲が減退することがあります。飲み込みが悪くなり(嚥下機能障害)、食事量が減ってしまうこともあります。また、高齢者は、多くの疾患が併存していることから、多くの薬剤が処方されており、副作用により食欲低下が起こっていることもあります。配偶者や知人との死別等による精神的なストレスも低栄養の要因となります。独居、高齢者世帯などの環境の変化や行動範囲の低下により、欠食や食物の摂取不足を招いていることも要因として挙げられます。
令和5年国民健康・栄養調査では、65歳以上の高齢者の低栄養傾向の者(Body Mass Index(BMI)≦20kg/m2)の割合は男性12.2%、女性22.4%であり、男女ともに85歳以上でその割合が高くなっています。
日本人の食事摂取基準2020年版では、高齢者の目標とするBMIの範囲を、総死亡率を低く抑える観点で、21.5~24.9kg/m2としています[3]。高齢者では、65歳未満の目標の範囲と比べ、BMIの下限が高く設定されています。従って、高齢者では、体重を厳格に管理することよりも、食事の質を考慮して、食生活を組み立てることが重要になってきます。
1 男女共通。あくまでも参考として使用すべきである。
2 観察疫学研究において報告された総死亡率が最も低かったBMIを基に、疾患別の発症率とBMIの関連、死因とBMIとの関連、喫煙や疾患の合併によるBMIや死亡リスクへの影響、日本人のBMIの実態に配慮し、総合的に判断し目標とする範囲を設定。
3 高齢者では、フレイルの予防及び生活習慣病の発症予防の両者に配慮する必要があることも踏まえ、当面目標とするBMIの範囲を21.5~24.9kg/m2とした。
体重を減少させない、つまり筋肉量を維持するためには、栄養素の中では、特にたんぱく質の摂取が重要です。たんぱく質は、獣鳥肉類、乳類、魚介類、大豆製品に多く含まれています。日本人の食事摂取基準2020年版において、高齢者のたんぱく質摂取量の目標量の下限値は、特にフレイルの予防等も考慮して、65歳未満の者よりも高めに設定されています。高齢者では、筋肉量を維持するためにも、たんぱく質が不足しないように心がけることが必要なのです。1日1食や2食などの偏りのある食生活ではなく、1日3食を規則正しく決まった時間に摂り、さらに3食毎にバランスよく、たんぱく質を多く含む食品を摂取することを心がけることが、筋肉量の維持に繋がります[4]。また、エネルギー確保のために、主食となる米、パン、麺などを3食必ず摂ることを心がけましょう。
一方、筋肉量の維持には、定期的な運動も欠かせません(健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023を参照)。たんぱく質の質を考慮したバランスの良い食生活と個人の身体能力に合わせた適切な運動を普段から心がけることが、低栄養の予防となり、要介護予防、健康寿命の延伸につながります。
(最終更新日:2024年11月29日)