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飲酒とJカーブ

既存の疫学研究から、飲酒量と健康リスクとの関係は様々なパターンをとることが示唆されています。高血圧や脳出血は正比例関係を示すといわれていますが、非飲酒者に比べて少量飲酒者のリスクがむしろ低く、飲酒量が増えればリスクが高くなるというJカーブパターンをとるものもあります。総死亡数・虚血性心疾患・脳梗塞・2型糖尿病などでこのような関係が認められており、飲酒の健康面での利点とされています。ただしJカーブ関係が認められるのは、先進国の中年男女とされていることに留意が必要です。

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1. 飲酒量と健康リスク

世界保健機関は飲酒は60以上もの病気を引き起こしていると報告しています。確かに大量飲酒を続ければ多くの病気が発生することは間違いないでしょう。それでは少ない飲酒量と健康リスクとはどのような関係になっているのでしょうか。既存の疫学研究から、病気の種類により様々なパターンをとることが示唆されています。

【図1】アルコール消費と生活習慣病等のリスク

アルコール消費と生活習慣病等のリスク

【図1】は、いくつかのパターンを示しています。飲酒量と健康リスクが正比例関係にある(a)パタ-ンは、高血圧・脳出血・高脂血症(中性脂肪)などで認められます。飲酒量の低いうちはリスクの上昇がほとんどなく、飲酒量が多くなると急激にリスクが高まる(b)パターンは、肝硬変の特徴です。これらに比べて(c)は特異なパターンをとっています。非飲酒者に比べて少量飲酒者のリスクがむしろ低く、さらに飲酒量が増えれば今度はリスクが非飲酒者のそれより高くなるというパターンです。
少量飲酒の疾患リスクの低下は、飲酒の健康面における利点を示唆しています。このパターンは、その形からJ字型曲線(Jカーブ)またはU字型曲線(Uカーブ)と呼ばれています。この形を示す疾患で最も有名なのは虚血性心疾患です。このようなパターンをとる疾患として他にも脳梗塞・2型糖尿病などが知られています[2]

2. 飲酒量と死亡率

【図2】死因別、飲酒別の相対リスク

死因別、飲酒別の相対リスク

現在、わが国でいくつかの大きなコホート研究が行われています。【図2】はそのうちの研究結果のひとつです。この研究では40歳~79歳の男女約11万人を9年~11年追跡しています。グラフの「禁酒者」とは、以前に飲酒していたが何らかの理由で現在禁酒している者です。これらの者は健康問題を持つ者が多いと推定されます。図のように男女とも、外傷やその他の外因による死亡以外は、がん・心血管疾患および総死亡でJカーブが見られます[3]。総死亡でみると男女とも1日平均23g未満(日本酒1合未満)で最もリスクが低くなっています。

欧米でも飲酒量と総死亡についてJカーブ関係が示唆されています。【図3】は欧米人を対象とした14の研究をまとめて解析した(メタ分析)結果を示しています4。男女とも1日平均19gまでの飲酒者の死亡のリスクは非飲酒者よりも低くなっています。

3. 節度ある適度な飲酒量

「健康日本21」における「節度ある適度な飲酒量」すなわち「純アルコールで1日平均20g程度」は主にこの飲酒量と総死亡との関係をもとに決められました。男性の場合1日20g前後は【図2】でも【図3】でも、非飲酒者よりリスクが低いことがわかります。またこの飲酒量については、他の多くの国のデータでも低リスク傾向が認められました[1]。ただし【図3】も示唆している通り、女性の場合には20gより低く設定されるのが妥当と考えられます。

4. Jカーブはすべてにあてはまるか

Jカーブは健康面における飲酒の利点を示していますが、多くの制限を伴うことを理解しておく必要があります。まず既述の通り、Jカーブが見られるのは総死亡と幾つかの疾患に限られています。少量飲酒で総死亡のリスクが下がっているのは、虚血性心疾患の効果が大きく反映されていると考えられています。
またこのような疾患でもJカーブ関係が認められるのは先進国の中年男女とされています。若年者の死亡についてはほぼ直線関係になるという研究結果もあります[5]
アルコールは健康問題以外にも暴力・虐待・事故等の深刻な社会問題を引き起こします。これらの問題のリスクと飲酒量の関係もJカーブ関係を示さないことが示唆されています。

参考文献

  1. 樋口 進ほか (編).
    健康日本21推進のためのアルコール保健指導マニュアル.
    社会保険研究所, 東京, 2003.
  2. Higuchi S, Matsushita S, Maesato H et al.
    Japan: alcohol today.
    Addiction 102: 1849-1862, 2007.
  3. Lin Y, Kikuchi S, Tamakoshi A et al.
    Alcohol consumption and mortality among middle-aged and elderly Japanese men and women.
    Ann Epidemiol 15:590-597, 2005.
  4. Holman CD, English DR, Milne E et al.
    Meta-analysis of alcohol and all-cause mortality: a validation of NHMRC recommendations.
    MJA 164: 141-145, 1996.
  5. Andreasson S, Allebeck P, Romelsjo A.
    Alcohol and mortality among young men: longitudinal study of Swedish conscripts.
    BMJ 296: 1021-1025, 1988.