アルコールは少量なら気持ちをリラックスさせたり会話を増やしたりする効果がありますが、大量になると麻酔薬のような効果をもたらし、運動機能を麻痺させたり意識障害の原因になります。その他、少量のアルコールは循環器疾患の予防になったりHDLコレステロールを増加させたりします。
アルコールは体のさまざまなところに作用することが知られています。ここでは中枢神経・循環器・脂質・血液凝固・内分泌への作用について解説します。
酔いの効果は血液中のアルコール濃度によって変化してふたつの相から成ります。【表】と【図】で示されるようにアルコールの血中濃度が低濃度であれば抑制がとれて活発になりますが、ある程度の濃度を越えると逆に鎮静効果の方が強くなって小脳の機能が低下し、呂律が回らない・まっすぐ歩けないといった運動機能の障害がみられるようになり、さらに濃度が高まると意識障害を起こして死亡します。どのくらいの血中濃度でこれらの効果が現れるかは、個人のアルコールに対する感受性などによっても異なりますが、少量の飲酒は活発になったり不安感を減らしたり陶酔感をもたらすといった効果があるため、コミュニケーションの潤滑剤のような使われ方をされます。
血中アルコール濃度 | 酩酊症状 |
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20-50mg/dl | 気分さわやか、活発な態度 |
50-150mg/dl | 気が大きくなる、馴れ馴れしい、集中力の低下、心拍数・呼吸数の増加 |
150-250mg/dl | 構音障害、失調性歩行、複視、悪心・嘔吐、傾眠傾向、突拍子もない行動、反社会的行為 |
250-400mg/dl | 歩行困難、言語滅裂、明らかな意識障害、粗い呼吸 |
400-500mg/dl | 昏睡状態、尿失禁、呼吸停止、死亡 |
いわゆる精神安定剤は作用する神経伝達物質の結合部位(受容体)が決まっていて特定の受容体に働いてその効果を発揮します。ところがアルコールの作用部位については決まったところがありません。通常飲酒する程度の濃度ですとアルコールは受容体を構成する蛋白に結合して機能を変化させることが示されています[1]。神経伝達物質としては中脳辺縁系や側坐核におけるドパミン放出の増加が有名です[2]。その他にも興奮性アミノ酸受容体(NMDA)やGABA受容体などがアルコールの影響を受けるとされていますが、詳しいことは十分には解明されていません。
アルコールは寝つくまでの時間を短縮させます。そのためにアルコールを寝酒として使う人もいます。しかし就床1時間前に飲んだアルコールは、少量でも睡眠の後半部分を障害することが知られています[3]。つまり、寝つきは良いのですが夜中に目覚めてその後なかなか眠れないという現象がおこります。また就床前のみならず就床6時間前に飲んだアルコールも睡眠後半部分の覚醒度を上げることが知られています[3]。
世界各国で行われた大規模な研究から飲酒と循環器疾患の死亡率との間にはJカーブ関係が認められると報告されています。その詳細については「アルコールと循環器疾患」の項を参照してください。
この効果は飲酒によっていわゆる善玉コレステロールであるHDLコレステロールが増加すること[1][2]、飲酒すると血小板の凝集が抑制されることが関係していると考えられます。しかしアルコールによる血小板凝集抑制効果は飲酒1時間後には消失して4時間後にはかえって増加し、リバウンド効果のあることが示されています[4]。
アルコールはブドウ糖のインスリン分泌刺激作用を強める働きがあります。また少量の習慣的な飲酒は血糖値を下げて、末梢組織のインスリン感受性を増加させます[5]。一方で大量飲酒者ではインスリン分泌が低下して耐糖能障害がみられます[6]。
長期にわたる大量の飲酒は男性ホルモン分泌を障害します。また健康な女性に3週間にわたって毎日ビール350mLを3本飲酒してもらったところ、性周期の遅れや無排卵などの異常がみられたと報告されており[7]、男女ともアルコールは性ホルモン分泌を障害することが知られています。