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眠りのメカニズム

私たちは毎日ほぼ同じ時刻に眠り、同じ時刻に目が覚めます。このような規則正しい睡眠リズムは、日中の疲労蓄積による「睡眠欲求」と体内時計に指示された「覚醒力」のバランスで形作られます。健やかな睡眠を維持するために、夜間にも自律神経やホルモンなど様々な生体機能が総動員されます。睡眠にはサイクルがあります。夢を見る「レム睡眠」と大脳を休める「ノンレム睡眠」が約90分周期で変動し、朝の覚醒に向けて徐々に始動準備を整えます。

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睡眠と覚醒のリズム

私たちは毎日ほぼ同じ時刻に眠りに入り、7~8時間ほどで自然に目覚めます。また徹夜をしていても徐々に眠気が強まり、明け方になると耐え難い眠気を感じますが、午後には眠気がいったん軽くなります。このように決まった時刻に眠気が出現し、また醒めてゆく睡眠(眠気)のリズムはどのように形作られるのでしょうか。

睡眠をかたちづくるふたつのメカニズム

ヒトの睡眠(眠気)は大きくふたつのシステムで形作られています。【図1】に眠りのメカニズムを示しました。

図1: 眠りのメカニズム

眠りのメカニズム

第一のシステムは、覚醒中の疲労蓄積による睡眠欲求(青矢印)です。睡眠欲求は目覚めている時間が長いほど強くなります。徹夜などで長時間覚醒していると、普段寝つきにくい人でもすぐに入眠し、深い眠りが出現することが知られています。いったん眠りに入ると睡眠欲求は急速に減少し、その人にとって十分な時間だけたっぷりと眠ると睡眠欲求は消失して私たちは覚醒します。

第二のメカニズムは、覚醒力(赤矢印)です。覚醒力は体内時計から発信されるシグナルの指示で、交感神経の活性化、覚醒作用のあるホルモンの分泌、深部体温(脳温)の上昇などによりもたらされます。覚醒力は日中を通じて増大し、徐々に強まる睡眠欲求に打ち勝ってヒトを目覚めさせます。普段の就床時刻の数時間前に最も覚醒力が強くなり、その後メラトニンが分泌される頃(就床時刻の1~2時間前)に急速に覚醒力が低下します。このため、私たちは夕食後に団欒するなどすっきり目覚めていても、就床時刻あたりで急に眠気を感じるようになります。仮に覚醒力がなければ、徐々に強まる睡眠欲求のため日中の後半は眠気との戦いで質の高い社会生活は営めなくなるでしょう。

睡眠を維持するために生体機能を総動員

睡眠と覚醒を調節するために体内時計は生体機能を総動員します【図2】。

図2: 眠りのメカニズム

眠りのメカニズム

例えば、活動する日中には脳の温度を高く保ち、夜間は体から熱を逃がして脳を冷やします(熱放散)。
そのため就床前の眠気が強くなる時間帯は、脳が急速に冷える時間と一致しています。寝入る前に赤ちゃんの手足がぽっかりしているのは熱放散をしているためです。また同じ頃、体内時計ホルモンであるメラトニンが分泌を始め入眠を促します。これら以外にも様々な生体機能が協調しあいながら、ハーモニーを奏でるように質の高い眠りのために作用します。
朝方になると覚醒作用を持つ副腎皮質ホルモンの分泌が始まります。また、脳の温度が自然に高くなります。このような準備状態が整って私たちは健やかな目覚めを迎えます。

メラトニンは睡眠を促進する作用を持ちますが、明るい光の下では分泌が停止します。静臥して熱放散を促し、メラトニン分泌を妨げないように消灯をした暗い部屋で休むことは、睡眠をサポートする生理機能の力を最大限に引き出す上でも大事なことなのです。

消費カロリーと睡眠の関係

睡眠はすべての動物種でみられますが、睡眠の長さは様々です。一般的にコウモリやネズミなど運動量が多く、体重当たりの消費カロリー数が大きい動物種ほど、睡眠時間が長い傾向があります【図3】。

図3: 酸素消費量と睡眠量

酸素消費量と睡眠量

すなわち睡眠は覚醒中に蓄積した疲労を回復すると同時に、エネルギーを節約するための最も効率のよい休養のあり方であるといえます。ヒトも成長とともに体重当たりの消費カロリーが減少します。睡眠時間、特に深い睡眠が年齢とともに減るのは理に適ったことであるともいえます。

睡眠もダイナミックに変化する

睡眠は決して「脳全体が一様に休んでいる状態」ではありません。眠っている間にも脳活動は様々に変化します。ヒトの睡眠はノンレム睡眠(non-REM sleep)とレム睡眠(REM sleep)という質的に異なるふたつの睡眠状態で構成されています。レム睡眠は、眠っているときに眼球が素早く動く(英語でRapid Eye Movement)ことから名づけられました。ノンレム睡眠では脳波活動が低下し、睡眠の深さにしたがってさらに4段階に分けられます。

【図4】に睡眠脳波検査で測定した健常成人の典型的な夜間睡眠パターンを示してあります。睡眠は深いノンレム睡眠(段階3と4)から始まり、睡眠欲求が低下する朝方に向けて徐々に浅いノンレム睡眠(段階1と2)が増えてゆきます。その間に約90分周期でレム睡眠が繰り返し出現し、睡眠後半に向けて徐々に一回ごとのレム睡眠時間が増加してゆきます(最近の判定法では、浅いノンレム睡眠N1、N2と深いノンレム睡眠N3の3段階に分けることもあります)。

図4: 夜間睡眠パターン

夜間睡眠パターン

深いノンレム睡眠は、大脳皮質の発達した高等生物で多く出現します。昼間に酷使した大脳皮質を睡眠前半で集中的に冷却し、休養を取らせます。レム睡眠では全身の筋肉が弛緩し、エネルギーを節約して身体を休める睡眠といえます。レム睡眠時の脳波活動は比較的活発で夢をよく見るほか血圧や脈拍が変動することから、心身ともに覚醒への準備状態にある睡眠ともいえます。

(最終更新日:2023年01月23日)

三島 和夫

三島 和夫 みしま かずお

秋田大学大学院 医学系研究科精神科学講座 教授

1987年秋田大学医学部医学科卒業。医師、博士(医学)。精神保健指定医、日本精神神経学会専門医・指導医、日本睡眠学会専門医。日本睡眠学会、日本生物学的精神医学会、日本時間生物学会の理事、日本学術会議連携会員などを務める。秋田大学医学部精神科学講座准教授、バージニア大学時間生物学研究センター研究員、スタンフォード大学睡眠研究センター客員准教授、2006年より国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。

参考文献

  1. 睡眠科学 -最新の基礎研究から医療・社会への応用まで- 三島和夫編. 京都, 化学同人; 2016.
  2. 三島和夫: 脳とこころのプライマリケア 5 意識と睡眠. 東京, シナジー; 2012.
  3. 三島和夫: 概日リズムと睡眠. 時間生物学. 海老原史樹文, 吉村崇編, 化学同人; 2012.
  4. 三島和夫. 【睡眠・覚醒の調節機構:その謎から臨床へ】睡眠の概念とその生理的意義. Progress in Medicine. 2021;41:1153-1158.