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発育・加齢と身体活動量

子ども時代の運動経験は、成人期以降の体力レベルあるいは身体活動状況を左右するというトラッキングの可能性が指摘されています。したがって、子ども時代の身体活動の重要性を十分に理解し、子ども達が積極的に身体を動かすことのできる環境あるいは政策の支援がこれまで以上に必要です。

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日本では、1回30分以上の「運動」を少なくとも週2回以上、1年以上継続している者の割合は、成人男性で33.4%程度、女性で25.1%程度に留まっています[1]。また、最近の10年間(平成21年~令和元年)の推移をみると、成人男性では微増、女性では微減を示しています(年齢調整なしのデータ)。いずれにせよ、日本人は概ね運動不足という言葉があてはまると考えられます。また特徴として、男女とも60代、70代の運動習慣者の割合が平均値よりも高い一方で、男性では40代が、女性では30代が最も低い割合を示しています。

なお、「運動」とは体力(スポーツ競技に関連する体力と健康に関連する体力を含む)の維持・向上を目的とする計画的・継続的に実施される身体活動と捉えています。

そこで「運動」ではなく、1日の歩数から国民の身体活動状況をみてみましょう。すると、成人男性で7,000歩程度、女性で6,000歩程度であることがわかります。最近の10年間(平成21年~令和元年)の推移(年齢調整なしのデータ)をみると、成人男性では統計的に有意ではないものの400歩程度の減少傾向がみられます。一方、女性では500歩程度の減少がみられ、これは統計的に有意な減少であることがわかっています。このような結果から、国民全体としてみると身体不活動の状況が進行していると考えられます。

それでは、このような成人期の不活発なライフスタイルは、いつどのように形成されていくのでしょうか。成人期の運動習慣を含めた日常行動は、少なからず過去(幼少期や思春期)の経験(運動習慣やライフスタイル)の影響を受け、形成されていくと考えられます。このような子ども時代の運動経験等が成人期以降の身体活動状況に影響を及ぼすこと(持ち越されること)をトラッキングと呼んでいます。ある研究では、14歳時点のスポーツの実施状況(週当たりの実施頻度)が31歳時点での身体活動状況を決定する可能性を報告しています[2]。これまでの数多くの研究報告をまとめると、調査方法や追跡した年数が異なるため明確な結論を出すことは難しいのですが、思春期以降の身体活動は比較的トラッキングしやすい可能性があります。つまり思春期の時点で、運動習慣がしっかりと定着していることや、また運動・スポーツに好意的であるかどうかなども重要なポイントになりそうです。

そこで注目したいのが、児童期から思春期頃までの運動習慣率や運動・スポーツへの意欲・関心についての調査結果です。日本の児童・生徒(小学5年・中学2年)の運動実施状況は、1週間の総運動時間60分(1日10分弱)にも満たない者が男子で7.6%(小5)および7.5%(中2)、女子で13.0%(小5)および19.7%(中2)です[3]。また、東京都が実施している生活・運動習慣等調査による1日あたりの平均的な運動実施時間は、男女とも学年が進行するに伴い長くなる傾向にありますが、運動をたくさん実施する人とそうでない人の二極化が進んでいることもわかっています。

児童期から思春期にかけて二極化の実態が起きる原因を考察する上でポイントになる視点が、子どもの運動やスポーツ、あるいは体育授業への意欲や態度だと考えられています。東京都の調査結果によると、「運動やスポーツをすることは好きですか」という質問では、男子では「ややきらい」もしくは「きらい」と答えた子どもの割合が小学1年生で4.9%であったのが、小学6年生で9.2%、中学生3年生で12.6%、高校3年生で14.6%と学年進行に伴い増加していることがわかります。女子ではさらに顕著な増加傾向がみられます。また「運動やスポーツをもっとしたいと思いますか」や「体育授業は楽しいと思いますか」の質問において、例えば男子では、小学1年生でそれぞれ9.8%、6.4%の人が否定的な感情を持っています。その割合が小学6年生では、それぞれ16.0%、10.2%、中学3年生でそれぞれ20.3%、12.4%、高校3年生でそれぞれ24.8%、19.0%とさらに多くなっていきます[4]

上述の調査の結果から推察されることは、運動やスポーツにつきものである、「相対的評価(優劣)」、「勝敗を重視する志向」、「練習等の厳しさ」がそのような意欲や態度を形成させているのではないかということです。そのように考えると、成人期に運動やスポーツの習慣を定着させるための土台づくりは、思春期の頃というよりもむしろ幼少期や児童期にあり、身体を動かすことの喜びや楽しみを存分に味わえる実施環境の構築や整備がとても大切であると考えられます。

(最終更新日:2023年01月05日)

引原 有輝

千葉工業大学 創造工学部教育センター(創造工学部) 教授

参考文献

  1. 厚生労働省. 令和元年「国民健康・栄養調査」結果の概要. 2019.
    https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf
  2. Tammelin T, Näyhä S, Hills AP, Järvelin MR.Adolescent participation in sports and adult physical activity. Am J Prev Med, 24: 22-8. 2003.
  3. スポーツ庁. 令和元年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果概要. 2019.
    https://www.mext.go.jp/sports/content/20191225-spt_sseisaku02-000003330_4.pdf
  4. 東京都教育委員会. 令和元年度東京都児童・生徒体力・運動能力、生活・運動習慣等調査結果報告書. 2019.
    https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/school/content/physical_training_and_club_activity/files/2019sporttest/04_dai2_1.pdf