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身体活動に関する世界行動計画2018-2030(GAPPA)

身体活動には、健康上多くの利点があることが多数の疫学研究で証明されています[1][2]。それにもかかわらず、身体活動不足(physical inactivity)は世界規模で蔓延しており、世界規模で対策をとるべき公衆衛生上の問題になっています。そこで世界保健機関(WHO)は、2018年6月に「身体活動に関する世界行動計画2018-2030(Global Action Plan on Physical Activity 2018-2030[GAPPA])」を発表しました。身体活動促進はSDGsの達成にも貢献します。多領域が協力して、社会としてシステムズアプローチで、相互利益(コベネフィット)を創出していくことが重要です。

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身体活動促進に関する世界行動計画2018-2030(GAPPA)とは

世界でも広く身体活動不足は問題視され、優先度の高い公衆衛生課題であると認識されていますが、一向に身体活動不足の割合は改善していません【図1】[2]

図1. 世界の身体活動不足*の割合の年次推移[2]を参考に作成

世界の身体活動不足の割合の年次推移

*身体活動不足(physical inactivity):中強度以上の身体活動が週150分未満かつ/または高強度の身体活動が週75分未満の者

 

この現状を受け、2018年5月の第71回世界保健総会で決議され、6月に世界保健機関(WHO)が、「Global Action Plan on Physical Activity 2018-2030. More Active People for a Healthier World.(GAPPA、身体活動に関する世界行動計画 2018-2030, 健康的な世界に向けて一人一人よりアクティブに)」を発表しました[3]

GAPPAの日本語訳については、http://sports.hc.keio.ac.jp/ja/news/2020/02/who2018-2030.htmlを参照してください。

GAPPAの戦略目標と政策措置

GAPPAでは、具体的な数値目標として、身体活動不足の割合を2025年までに相対的に10%、2030年までに15%減らすことを掲げています。そして、身体活動不足を減らし、健康的で持続可能な世界をつくるために、「アクティブな社会を創造」「アクティブな環境を創造」「アクティブな人々を育む」「アクティブなシステムを創造」という4つの戦略目標を設定し、それぞれの目標に4~6項目、計20の政策措置を設定しています【表1】。

表1. GAPPAの4つの戦略目標[4]

1 アクティブな社会を創造

社会規範と態度
定期的な身体活動は、あらゆる年齢・能力に応じて、多様な効果があります。このことへの知識と理解を深め、真価を認め、社会全体にパラダイムシフトを起こします。

2 アクティブな環境を創造

場所と空間
あらゆる年齢の人々が、個々の能力に応じ、市街やコミュニティで、定期的な身体活動を行うために、安全な場所や空間へ平等にアクセスできる権利の保有を促進し、それらの環境を創造・維持します。

3 アクティブな人々を育む

機会とプログラム
あらゆる年齢・能力の人々が、定期的な身体活動に取り組むことを支援するため、個人、家族、コミュニティなど、どのような方法でも参加できるよう、様々な状況でプログラムへアクセスできる機会を創出・促進します。

4 アクティブなシステムを創造

ガバナンスと政策の成功要因
リソースをうまく活用し、身体活動不足の解消を実現していくためには、分野をまたいだリーダーシップ、ガバナンス、多様な分野間のパートナーシップ、従事者の能力強化、分野間のアドボカシーや、情報システムを構築・強化し、身体活動の増加や座位行動の減少に向けて国際間、国内、地域で協調した活動を行います。

 

図2. GAPPAで示された、身体活動促進に関するシステムズマップ[4]より転載

GAPPAで示された、身体活動促進に関するシステムズマップ

図2の詳細については、参考文献4を参照してください。WHOは、これらの戦略目標及び政策措置はそれぞれ独立したものではなく、相互に関わり合っている点がポイントで、部分だけでなくそのつながりや関係性を重視する考え方、すなわち、システムズアプローチ[5]により、全体をとらえて考えていく必要があることを強調しています。

 

多様な分野の相互利益(コベネフィット)につながる

これらの戦略目標や政策措置は、いわゆる健康分野や身体活動・運動といった分野のものだけで達しうるものではなく、例えば都市計画・交通・教育・人材育成などといった多様な分野が協力して初めて成しうるものです。かつ、その効果は、身体活動増加⇒健康増進という流れだけでなく、例えば、徒歩や自転車での移動励行による、自家用車利用の低減⇒二酸化炭素排出率低減、など多様な分野にもベネフィットを生み出せる可能性があります。これらを相互利益(コベネフィット)といい、2030年の持続可能な開発目標Sustainable Development Goals(SDGs)のうち少なくとも13の領域の達成に貢献できることが示されています【図3】。

図3. 身体活動は、健康面・社会面・経済面に多様な効果がある[4]より転載

身体活動は、健康面・社会面・経済面に多様な効果がある

GAPPAで示したシステムズアプローチは、入り口も多様、出口も多様で、相互に関連しており、多くの分野で行いうることがあり、かつ、それぞれの利益や更に高次の利益につながるということを社会全体で理解し、取り組んでいく必要があります。GAPPAの行動計画は100ページに及ぶもので、特に、WHO、各国、さらにそれぞれのステークホルダーが何をすべきか、20の政策措置ごとに記載されています。

今後日本でも国レベル、地域レベル、何らかの集団レベル(職域・学校他)においてステークホルダーが集まりGAPPAを咀嚼し、自分たちに合った行動計画を立て、実行・再評価・共有し、スケールアップしていく必要があります[6] [7]

(最終更新日:2023年03月29日)

小熊 祐子

小熊 祐子 おぐま ゆうこ

慶應義塾大学 スポーツ医学研究センター・大学院健康マネジメント研究科 准教授

慶應義塾大学医学部卒。博士(医学)。専門は、運動疫学、スポーツ医学、身体活動と公衆衛生。
身体活動と健康を中心テーマに、地域介入研究、前向きコホート研究、慢性疾患を有する人の身体活動促進の社会実装などに尽力している。

参考文献

  1. 厚生労働省.
    健康づくりのための身体活動基準2013.
    http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xple-att/2r9852000002xpqt.pdf
  2. Guthold R, Stevens GA, Riley LM, Bull FC.
    Worldwide trends in insufficient physical activity from 2001 to 2016: a pooled analysis of 358 population-based surveys with 1.9 million participants.
    Lancet Glob Health. 2018;6(10):e1077-e86.
  3. WHO.
    Global Action Plan on physical activity 2018-2030.
    2018.
    https://www.who.int/publications/i/item/9789241514187
  4. 慶應義塾大学, 日本運動疫学会.
    身体活動に関する世界行動計画2018-2030メインレポート. 2020.
    http://sports.hc.keio.ac.jp/ja/news/files/2020/9/3/WHO%20GAPPA%20Japanese%20revise%20final2.pdf
  5. Meadows D.
    Thinking in systems: A primer.
    White River Junction, VT, USA: Chelsea Green Publishing; 2008.
  6. 小熊祐子.
    Global Action Plan on Physical Activity 2018-2030についてーSDGs、オリンピック・レガシーとともに考えるー.
    日本健康教育学会誌. 2020;28(2):92-100.
  7. 小熊祐子, 齋藤義信.
    身体活動のすすめ 今求められるシステムズアプローチ、歯科とのつながりを考える.
    日本歯科医師会雑誌. 2020;73(4):293-304.