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自殺の実態

わが国の自殺者数は、平成10年に一挙に3万人を超え、以後、この状態が続いています。この急増は、「経済・生活問題」による中高年男性を中心としたものであり、バブル崩壊の影響が推測されています。現在、わが国の自殺の実態把握は厚生労働省と警察庁のデータに頼るしかなく、より詳細な実態把握が課題となっています。

 わが国の自殺者数は、平成10年に前年比で約35%増加して一挙に3万人を超えました。以後9年間、この状態が高止まりのまま推移し、平成18年の自殺者総数は、厚生労働省の人口動態統計では、2万9,921人、警察庁の自殺の概要資料では3万2,155人となっています。

 国際的に見たわが国の自殺

 わが国の自殺者総数は世界第3位、人口10万人あたりの自殺率 (自殺死亡率) で見ると世界第10位、主要国首脳会議 (G8) の加盟国中ではロシアに次いで第2位となっています。「銃社会」といわれ、銃による自殺が多い米国でさえ、自殺死亡率は日本の半分以下ですし、英国に至っては3分の1以下です。経済的に豊かで社会情勢も安定した日本で自殺が多い理由については、まだ不明な点が多いのが実情です。

 自殺の性差・職業・原因

 平成10年以降のわが国の自殺の実態として特徴的なのは、自殺者の7割以上 (平成18年、71.6%) を男性が占め、なかでも45~64歳の中高年層で、男性の自殺者の約4割を占めている点です。職業別の自殺者数で見てみると、平成10年に「無職者」「被雇用者」「自営業者」の自殺が急増し、現在もなおその傾向が続いていることも重要な特徴です。また原因・動機別では、平成10年より「経済・生活問題」が急増し、平成11年以降から現在まで、男性の自殺の原因・動機としては最も多いものとなっています。一方、女性では、自殺死亡率は平成10年前後で大きな変化は見られませんが、男性と同じく中高年層に多く、職業別では「主婦・主夫」の割合が大きいことが特徴といえます。また、自殺の原因・動機としては、平成10年以前から現在まで、一貫して「健康問題」が最も多いものとなっています。

 自殺の手段・場所・時期

 自殺の手段としては、男女ともに「縊首」が最も多く、6~7割を占めています。ただし、若年層で「飛び降り」が他の年代に比べて多い傾向があること、平成15年以降「ガス」による自殺が増えていることには注目しておく必要があります。後者は、近年話題となっている「練炭自殺」の影響が反映された結果かもしれません。また死亡曜日・時間・月別では、男女ともに「月曜日」、「午前5~6時台」、「3月」に自殺が最も多く見られます。
その他、自殺者の53.5%が「自宅」で行っていること (平成18年)、遺書を残しているのは32.5% (平成18年) であること、配偶関係別では男女ともに配偶者と死別・離別した者の割合が多いものの、特に男性で離別者の割合が目立つことなどがあげられます。

 統計データから分かることと実態把握の課題

 以上の結果から、平成10年以降の自殺者急増は、「経済・生活問題」による中高年男性を中心としたものであり、バブル崩壊後の社会経済的状況の悪化による影響が推測されます。実際、この間、「借金自殺」や「過労自殺」といった問題がマスメディアによって報道されています。銀行の経営悪化が銀行の貸し渋りをもたらして、多くの中小零細企業経営者が多重債務者となり、あるいは、企業の経営悪化が大量の失業者を生みだし、残された被雇用者も、ひとりあたりの仕事量が著しく増大することで、うつ病などを引き起こした可能性が考えられます。
もちろん、中高年の自殺だけが問題というわけではありません。以前よりわが国では高齢者の自殺が問題となっていましたし、若年者に関しても、自殺者に占める割合は小さいとはいえ、20~30歳代の死因として最も多い原因です。

 いずれにしても、現状では、わが国の自殺の実態把握は厚生労働省と警察庁のデータに頼るしかなく、個々の自殺者が自殺に至る具体的なプロセスにはまだ不明な点が多い実情があります。その意味でも、自殺総合対策大綱の中で指摘されている、心理学的剖検 (遺族等からの自殺者に関する詳細な聞き取り調査) の手法による実態調査が望まれます。なお、心理学的剖検による実態調査は、現在、国立精神・神経センターの自殺予防総合対策センターで進められています。

松本俊彦
(独) 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所
自殺予防総合対策センター

参考文献

  1. 内閣府 平成19年版 自殺対策白書 (佐伯印刷株式会社, 2007年12月刊行)