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アルコール依存症の危険因子

依存症の危険因子には「1. 女性の方が男性より短い期間で依存症になる」「2. 未成年から飲酒を始めるとより依存症になりやすい」「3.遺伝や家庭環境が危険性を高める」「4.家族や友人のお酒に対する態度や地域の環境も未成年者の飲酒問題の原因となる」「5.うつ病や不安障害などの精神疾患も依存症の危険性を高める」といったことが知られています。

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危険因子とはアルコール依存症の原因やなりやすさにつながることを言います。これを他の疾患でみると高血圧や喫煙が脳卒中の危険因子というのと同じです。ただしアルコール依存症の場合は飲酒しなければ病気になることありませんし、逆に飲酒する人がすべて依存症になるわけでもないのでその関係は単純ではありません。ここでは今までに医学的に認められている依存症になりやすい要因について解説します。

1. 性・年齢

アルコール依存症は男女に関係なくみられます。また年齢もさまざまな病気です。以前から依存症が中年の男性に多いことはよく知られていました。今でも男性に多いことに変わりはありませんが、最近は若い女性の依存症が増えています。発症する年齢については、男性の方が女性より若いという意見と性差はないという意見があります。
しかし習慣的に飲酒を始めて依存症になるまでの期間は女性の方が短く、女性は男性より早く依存症になります。その原因として女性のほうが同じ飲酒量でも血中濃度が高くなりやすいこと、女性の方が男性より飲酒による肝障害やうつなどの精神科合併症を起こしやすいので飲酒問題が発見されやすいことなどが考えられます。

一方で男女関係なく飲酒を開始する年齢が早いほど依存症になる危険性が高いことが知られています。飲酒開始が1年遅くなるたびに後にアルコール問題を起こす可能性が4~5%低下するとも言われます。さらに生まれる前、お母さんのお腹の中にいる間にお母さんが飲酒して胎児期にアルコールに曝露された場合は成長期や成人後に攻撃的な行動・うつ病・不安・アルコールを含めた薬物問題が発生する危険性を高めます。

逆に最近では高齢でアルコール依存症になる人が増えていますが、退職や大切な人との死別などの出来事がきっかけになることも多いようです。

2. 家族のアルコール問題

アルコール依存症の親を持つ人はそうではない人と比べて依存症になる確率が4倍高いとされています。その原因としてまず遺伝があげられます。依存症の原因の50%は遺伝とされますが、その点については「アルコール依存症と遺伝」で説明しています。遺伝による危険性とは別に、親が子供の成人前に飲酒を認めるといった親の飲酒に対する態度や家族間の関係が希薄であること、夫婦喧嘩の子供に対する影響、子供に対する身体的・性的虐待、子供の放任を含めた家庭環境も依存症の危険性に影響しますので単に遺伝だけの問題ではありません。

3. 他の精神疾患

依存症の人にはうつ病が多いとされますが、逆にうつ病・不安障害注意欠陥多動性障害といった精神疾患もアルコール依存症の危険性を高めることが知られています。その原因として例えばうつ病や不安障害の場合、飲酒によってうつ病や不安障害の症状を緩和しようとするためと説明されますが、飲酒するとかえってうつ病の治りが悪かったり飲酒に関連した問題を起こし易かったりしますので注意が必要です。

またニコチン依存とアルコール依存はお互いによく合併することが知られており、他の依存(ギャンブルや違法薬物等)もアルコール依存症の危険性を高めます。

4. 環境要因

就学している未成年の場合、学業上の問題や学校を大切に考えない姿勢はアルコール問題の危険性を高めます。また飲酒・喫煙する友人を持つこともアルコール問題の危険性を高めます。その他、アルコール飲料の価格・入手し易さ・メディアによる宣伝といった環境も未成年者の飲酒問題に影響することが知られています。

松下 幸生

松下 幸生 まつした さちお

独立行政法人 国立病院機構 久里浜医療センター 院長

1987年慶応義塾大学卒業、同年同大学精神神経科学教室入局。88年より国立療養所久里浜病院(現・久里浜医療センター)勤務。2011年より副院長、13年より同センター認知症疾患医療センター長、2022年より現職。専門は、アルコール依存症、ギャンブル依存症、認知症など。

参考文献

  1. Gilbertson R., Prather R., Nixon S.J.
    The role of selected factors in the development and consequences of alcohol dependence.
    Alcohol Res Health 31: 389-399, 2008.
  2. Mason W.A., Hawkins D.J.
    Adolescent risk and protective factors: Psychosocial. in Principles of Addiction Medicine fourth edition (Ries R.K., Fiellin D.A., Miller S.C., Saitz R. ed.).
    Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 2009.
  3. 松下幸生, 樋口 進.
    飲酒とうつ状態の早期発見.
    こころの科学, 125: 43-48, 2006.
  4. 松下幸生, 樋口 進.
    アルコール・薬物依存と注意障害.
    専門医のための精神科臨床リュミエール10(加藤元一郎、鹿島晴雄編)中山書店, 東京, 2009.