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アルコールと脂質異常症

体の中の脂質のバランスが崩れてしまうことを脂質異常症といいます。アルコールの過剰摂取は、トリグリセリド(中性脂肪)の増加につながり、高トリグリセリド血症を招いて急性すい炎のリスクを高めます。一方、いわゆる善玉コレステロールであるHDLコレステロールもアルコール摂取量の増加にともない増加しますが、過度のアルコール摂取は肥満や高血圧を引き起こすため、適量にとどめたほうがよいでしょう。

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具体的には、①高LDLコレステロール血症(いわゆる悪玉コレステロールが血液中に多い状態)、②低HDLコレステロール血症(いわゆる善玉コレステロールが血液中に少ない状態)、③高トリグリセリド血症(中性脂肪が血液中に多い状態)のいずれかを満たす病態が脂質異常症と定義されます。

LDLコレステロールが血液中に多く存在すると、動脈の壁にくっつき動脈硬化を進行させます。高LDLコレステロール血症は、動脈硬化の最も強力な危険因子となります。またHDLコレステロールは本来であれば過剰なコレステロールを回収しますが、HDLコレステロールが少なくなることでやはり動脈硬化が進行します。低HDLコレステロール血症も、やはり動脈硬化の危険因子となるのです。高トリグリセリド血症はLDLコレステロールやHDLコレステロールほど動脈硬化への影響は強くありませんが、メタボリックシンドロームの診断基準のひとつであることからもわかるように、血圧や耐糖能異常などの複数の危険因子とともに動脈硬化の危険因子となり得るため、無視のできない存在です。また、高度な高トリグリセリド血症は、急性すい炎(膵炎)の発症と関連していることが知られています。脂質異常症や動脈硬化そのものには、自覚症状はほとんどありません。しかし、心筋梗塞・狭心症などの冠動脈疾患や脳梗塞などの脳血管障害を引き起こす原因となります。

アルコール摂取により大きく影響を受ける脂質は、トリグリセリド(中性脂肪)とHDLコレステロールです。アルコール摂取によりトリグリセリドが高くなる理由として、摂取する脂肪分が多すぎることだけでなく、アルコールにより肝臓で作られすぎたトリグリセリドが血液中に漏れることにもあります。そして肝臓に残ったトリグリセリドは肝臓に溜まり脂肪肝の原因となります。トリグリセリドは適量の飲酒量でもっとも低く、それ以上の摂取ではアルコール摂取量に比例して増加していくと言われています。1000mg/dlを超えるような重症の高トリグリセリド血症の場合には急性すい炎の原因となりうるため、ときに薬物療法が必要となることがあります。

HDLコレステロールもアルコール摂取量に伴って増加します。アルコールはHDLコレステロールの合成・分泌を増やし、分解を低下させる働きがあるからです。適量の飲酒であれば、血圧を上げずにHDLコレステロールが増加するため、脳血管障害・冠動脈疾患の発生を低下させると言われています。では良い影響だけでしょうか。アルコールがHDLコレステロールに及ぼす作用は、年齢や性別により個人差が大きいことが知られています。また過度なアルコール摂取は肥満や高血圧を引き起こすため脳血管障害・冠動脈疾患の危険因子には変わりありません。

脂質異常症の治療の目標値はこれまでにかかった病気や持病により個人で異なりますが、どのような場合でも生活習慣の改善が治療の基本となります。食事は脂質を抑え、魚などに含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸を摂取し、塩分を控えめにすることが勧められています。また運動療法としては1日30分以上の有酸素運動がおすすめです。そして禁煙と、適量にとどめたアルコール摂取も重要なポイントです。具体的には1日25g/日のアルコール摂取に抑えることが推奨されています。

(最終更新日:2022年12月23日)

露木 寛之

露木 寛之 つゆき ひろゆき

独立行政法人 国立病院機構 久里浜医療センター 精神科

2009年東海大学卒業。東海大学医学部付属病院および諏訪中央病院で初期研修。
沖縄協同病院、沖縄県立中部病院、沖縄県立宮古病院で総合内科後期研修および家庭
医療後期研修を修了。2016年より現職。
日本内科学会総合内科専門医。日本プライマリ・ケア連合学会家庭医療専門医。

参考文献

  1. 日本動脈硬化学会.
    動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版.
    2022.